<社説>2019年回顧 足元から未来構想しよう


社会
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 2019年が暮れようとしている。失ったものの大きさに悲嘆しつつも、何度も立ち上がってきた沖縄の歩みを想起させるような年となった。

 首里城焼失から今日で2カ月になる。火災は10月31日に発生し、正殿や南殿、北殿などの主要6棟が全焼した。
 首里城は琉球王国の政治や外交、文化の拠点で、正殿地下の遺構部分など城跡は世界文化遺産に登録されている。多くの県民の心のよりどころでもあり、焼け落ちる姿は深い衝撃と悲しみをもたらした。
 絵画や漆器などの収蔵品も約400点が焼失した可能性が高い。出火元は正殿1階の電気系統とみられている。原因を徹底的に究明し、悲劇を繰り返さないような防火体制を構築するほかない。
 ただ犠牲者が出なかったことは救いだった。再建に向けた県内の支援活動は、沖縄を糾合する一つの求心力になっているようにも映る。全国や海外から寄せられる多くの募金も県民を勇気づけた。
 政府も積極的に動き、本年度内に復元の工程表を策定する方針を示すなど議論を主導している。だが琉球の歴史文化の象徴である首里城の再建へ県の主体的な役割を求める声も強い。多くの善意に応え得る姿勢が求められている。
 天皇代替わりに伴う平成から令和への改元があった年でもあった。だが元号が新しくなっても、米軍基地の過重な負担に苦しむ沖縄の状況に変化は見られない。
 普天間飛行場移設に伴う名護市辺野古の埋め立ての賛否を問う県民投票が2月に行われ、反対が72%を占めた。辺野古新基地建設に反対する圧倒的多数の民意が示され、名護市を抱える衆院沖縄3区補選や参院選沖縄選挙区でも昨年の知事選と同様に、建設反対の候補が勝利した。
 それでも安倍政権は工事を止めない。もはや民主主義の否定に等しいが、埋め立て海域には軟弱地盤が広がる。政府は事業期間の想定について当初計画の約2倍の12年、総工費は3倍近い9300億円と大幅修正に追い込まれた。工期も経費もさらに膨らむのは必至だ。中止を求める県側の主張に正義も理もある。
 19年の終わりは2010年代の終焉(しゅうえん)と重なる。沖縄はこの10年、基地問題で翻弄(ほんろう)され自己決定権の確立を問い続けた。半面、経済は順調に拡大し、観光客は年1千万人を超えた。観光の量から質への転換や雇用の改善など、課題は多いが、広大な基地の返還が狭い県土の発展の鍵を握ることがより浮き彫りとなった。
 スポーツや芸能界での若者の活躍は県民の誇りも呼び起こした。一方、健康長寿は崩壊の危機にあり、深刻な子どもの貧困も表面化した。
 来年は戦後75年を迎える。近隣外交や国際情勢が不透明な今こそ、沖縄戦の教訓に学び平和への誓いを新たにする意義は大きい。時代の変わり目に立ち、私たちの足元から未来を構想していこう。