<社説>イラン米に報復攻撃 戦争の回避へ歩み寄りを


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 イランが、イラクに駐留する米軍の空軍基地を弾道ミサイルで攻撃した。イラン革命防衛隊のソレイマニ司令官殺害に対する報復だ。全面的な武力衝突になれば、中東全体や同盟国を巻き込んだ戦争に発展する恐れがある。

 トランプ米大統領は日本時間9日未明の声明で、イランによるミサイル攻撃で米国人に死者が出なかったことから、軍事的な報復はしないと表明。事態のエスカレートをひとまず回避した。一方で、新たな経済制裁を科して圧力をかけ続けるとも述べた。
 中東情勢は今後の展開が見通せない危機が続く。報復の応酬に完全に終止符を打つため、米国、イラン双方に理性的な対応が求められる。特に、トランプ氏の衝動的な政策決定で緊張を極度に高めてきた米国の自制が必要だ。
 トランプ氏はイラン核合意から一方的に離脱し、イランへの経済制裁を再開させた。離脱はオバマ前政権を否定するパフォーマンスであり、国家戦略に欠けた自己中心的な政策決定を象徴している。
 トランプ氏は司令官殺害を「多くの米国民の殺害を計画していた」として正当化している。だが、根拠となる情報は何も示していない。イラク戦争でも米国は「大量破壊兵器」の存在を侵攻の口実としながら、実際には見つからなかった。トランプ氏の主張も説得力に乏しい。
 ソレイマニ氏は最高指導者ハメネイ師の最側近だった。国家の要人を狙った暗殺は、宣戦布告と取られてもおかしくない。殺害の現場はイラク・バグダッド空港近くだが米国はイラク政府の同意を得ずに空爆を決行しており、イラクの主権も侵害している。国際法違反のテロ行為だ。
 安倍晋三首相は今月中旬に予定していた中東訪問を取りやめることを一度は検討していたが、再調整している。日本政府は海上自衛隊の中東派遣を閣議決定しており、菅義偉官房長官は「準備に万全を期したい」と予定通り実施する方針を示している。自衛隊員を無用な危険にさらす中東派遣は中止すべきだ。
 イラン側は米国の同盟国に対しても、各国の領土が米国による攻撃に使われた場合は反撃の標的になると強調している。米軍基地がある沖縄にとって対岸の火事ではない。イランと米国の軍事衝突が起きれば、沖縄の安全が脅かされ、基幹産業である観光にも打撃を与えかねない。日本は双方に対話を促す外交で存在感を発揮すべきだ。
 イラン政府は対米報復攻撃直後、米国が反撃しなければイランは攻撃を継続しないという書簡を出していた。司令官を殺害され国内の反米感情が沸点に達する難しい状況にありながら、戦争回避に向けたメッセージを送っている。対話へと歩み寄る時だ。
 米国が再びイラン核合意の枠組みに復帰するよう、国際社会が協調して平和構築を働き掛けていく必要がある。