<社説>蔡総統再選 中国は台湾の民意尊重を


社会
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 台湾の総統選で台湾独立志向の与党、民進党の蔡英文総統が親中路線の最大野党、国民党の韓国瑜・高雄市長らに圧勝し、再選された。

 沖縄にとって台湾は最も近い外国であり、歴史的にもつながりが深い。自由と民主主義の下に台湾の人々が選択した結果を重く受け止めたい。
 中国の習近平指導部が台湾統一への圧力を強める中で選挙が行われ、巨大化する中国との距離感が最大の争点だった。蔡氏は反中国の立場を鮮明に掲げ、中国が提示した「一国二制度」による台湾統一について「絶対に受け入れない」と繰り返してきた。
 蔡氏の得票数は約817万票で、過去最多となった。投票率は74・9%に上る。中国による台湾統一の圧力を拒否する姿勢に多くの有権者が共感した結果だと言える。
 蔡氏は2016年に就任したが、歩みは順調だったわけではない。経済の停滞や年金問題など内政面への不満から人気が低迷した。18年11月の統一地方選では惨敗し、20年にわたり市政を握った高雄市の市長ポストを今回の対抗馬となった韓氏に奪われるなど、再選が危ぶまれた。
 状況を変化させたのは皮肉にも中国だ。習氏は昨年1月に一国二制度による統一を具体的に提示したが、台湾の政府と市民は強く反発した。
 決定的だったのは一国二制度下の香港で昨年6月から続くデモだ。普通選挙導入などを求める学生や市民の活動を当局が抑え込み、中国政府は統治強化の姿勢を示した。これを受け台湾では「国民党が政権を取れば中国にのみ込まれる」と警戒感が強まった。
 こうした中、「中国の圧力に屈服せず台湾の主権を守る」と主張した蔡氏が多くの支持を得たのは当然の帰結と言えよう。選挙結果に反して中央政府が米軍基地建設を強行している沖縄からも、その選択は十分に理解できるものだ。
 勝利宣言をした蔡氏は中国に武力による威嚇をやめるよう求め、平和的で対等な立場での対話を呼び掛けた。中国は台湾の民意を尊重し、歩み寄るべきである。
 台湾経済は中国への依存度が高い。米中貿易摩擦が深まる中でトランプ米政権は台湾への支援を強めているが、緊張をあおることは許されない。中台の緊張が高まるたび、沖縄の米軍基地の存在が過度に喧伝(けんでん)されてきた。台湾海峡の平穏が東アジアの平和と繁栄にも不可欠だ。
 蔡氏は昨年の首里城火災ではいち早くお見舞いのメッセージを日本語でツイッター上に投稿した。台湾から沖縄には海外最多となる年90万人余の観光客が訪れている。貿易や投資、技術提携などの分野の交流も拡大している。民間レベルの交流も盛んだ。
 尖閣諸島周辺の漁業権など利害が対立するテーマもあるが、双方で新たな一致点を見いだしたい。隣人として対中関係の今後を見守りつつ、絆をより強めていきたい。