<社説>桜見る会名簿不記載 法治国家の対応ではない


社会
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 日本は本当に法治国家なのかと疑わざるを得ない。

 菅義偉官房長官は10日の記者会見で、首相主催の「桜を見る会」の招待者名簿を「行政文書ファイル管理簿」に記載していなかった内閣府の対応は公文書管理法違反に当たると認めた。菅氏はよく「わが国は法治国家だ」と口にする。名簿の取り扱いについても「適切」と強弁してきた。
 だが違法行為が明確である以上、原因を究明し責任の所在を明らかにした上で抜本的な再発防止策を示すべきだ。国民への説明責任を果たさなければならない。それが本来の法治国家の在り方である。
 公文書管理法は第1条で行政機関の文書について「健全な民主主義の根幹を支える国民共有の知的資源」と位置付け、将来の国民への説明責任を果たすよう求めている。
 今回、名簿を管理簿に記載しなかった内閣府は公文書管理法の所管官庁だ。ずさんの極みと言うほかない。名簿を破棄した際には、首相と協議して同意を得ると定めた同法の「事前同意」の手続きも踏まなかった。これまで内閣府の担当者が名簿を「破棄した」と答弁した時点でバックアップデータが残っていたことも判明している。
 政府は森友・加計学園問題で批判を受け、2017年に行政文書管理のガイドラインを改正し、行政の意思決定過程や事業の検証に必要な文書の保存期間を原則1年以上にすると決めた。一方で内閣府は名簿の保存期間を内規で1年未満と定め、廃棄の理由を「会の終了で使用目的を終えた。膨大な個人情報の適切な管理も難しい」と説明した。
 しかし2万人程度の個人情報は役所では珍しくない。他省庁は名簿を3~10年保存している。内閣府が管理簿に記載しなかった2013年~17年度の期間、桜を見る会への参加者や支出は膨らんだ。名簿は貴重な税金の使い道を検証するために必要な文書だ。
 税金で開催した行事は国民に説明責任を果たすため検証可能にするのは行政として当然だ。それができないのは民主主義の根幹に関わる危機的事態と言える。名簿管理のずさんさからすると、意図的に検証できないようにしていると疑われても仕方がない。
 桜を見る会を巡っては、預託商法などが問題視された「ジャパンライフ」元会長を首相推薦枠で招待したり反社会的勢力が参加したりした疑惑がある。安倍晋三首相の地元の有権者が多く招かれたことや、前夜の夕食会の会計処理について公選法や政治資金規正法に違反する可能性も指摘されている。
 こうした疑惑につながる実態を覆い隠すために文書管理をおろそかにしているのなら日本はもはや法治国家とは言えない。共同通信が今月実施した世論調査では疑惑に関し首相は十分説明していると思わないとの回答が86・4%に上った。首相は数々の疑惑に対しきちんと説明すべきだ。