<社説>首相の施政方針演説 まず不誠実な姿勢改めよ


社会
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 安倍晋三首相は20日召集された通常国会で施政方針演説を行った。沖縄に関し「首里城の一日も早い復元に向け全力を尽くす」と述べた。さらに那覇空港第2滑走路の供用開始を挙げ「アジアのゲートウェイとして沖縄の振興に取り組む」と意欲を見せた。

 沖縄の基地問題に関しては「抑止力を維持しながら基地負担軽減に一つ一つ結果を出す」と述べただけだった。昨年と同様、「県民に寄り添う」という言葉はなく、今回は「辺野古移設」や「普天間飛行場の一日も早い全面返還」という言葉も消えた。
 辺野古新基地建設のための埋め立てに投票者の7割超が反対の意志を示した昨年2月の県民投票後、初めての施政方針演説だ。日本が民主主義の国なら沖縄の民意に従って工事を中止すべきだが、安倍首相は強硬な姿勢を変えようとしない。
 演説は、経済振興を前面に据えた。新基地建設の強行に対する県民の反発を抑え、懐柔したいとの思惑が行間ににじむ。「県民の願い」から懸け離れた不誠実な政治姿勢と言える。
 辺野古の埋め立て海域には軟弱地盤が広がる。政府は事業期間の想定について当初計画の約2倍の12年、総工費は3倍近い9300億円と大幅に修正した。
 政府にとって都合の悪いことには口をつぐみ、県の反対意見に耳を傾けない態度は不誠実としか言いようがない。
 自身に不都合なことには触れず、反省すべき問題について解決法を示さないのは沖縄の問題だけではない。
 「桜を見る会」を巡っては、招待者の実態や税金の使い方など、疑惑が山積している。それらへの説明責任を果たしていないにもかかわらず、演説で触れることはなかった。
 共同通信が今月実施した世論調査では「桜を見る会」の疑惑に関し首相は十分説明していると思わないとの回答が86・4%に達した。
 国民の声を真摯(しんし)に受け止めず、説明を避けようとする態度は政治不信を助長する。
 演説では、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業を巡る汚職事件にも触れなかった。2017年8月から18年10月までIR担当の内閣府副大臣を務めた秋元司衆院議員(自民党を離党)が収賄容疑で東京地検特捜部に逮捕されたにもかかわらずだ。この問題に政府としてどう臨むかにも言及しなかった。
 一方で首相は全世代型社会保障制度の実現に向けた改革を「年内に実行する」と表明した。しかし「年金以外に老後資金2千万円が必要」とする報告書で広がった不安に応える具体的展望はいまだ示されていない。
 演説からは、国民が抱いている不安や疑念、疑惑を解消しようという姿勢が見られない。不誠実な態度を改めなければ国民の信頼は醸成されない。掲げた政策の数々は美辞麗句に映るだけだ。