<社説>豚熱ワクチン接種へ 衛生管理の手を緩めるな


社会
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 県内で1986年以来の発生となっている豚熱(CSF、豚コレラ)について、玉城デニー知事はワクチンの全頭接種によって感染拡大の防止を図る方針を表明した。ワクチン接種は病気の発症を予防する有効な手だてであり、感染域の拡大を不安視してきた農家の安心につながる。

 ワクチンを接種した豚と未接種の豚が混在するとかえってウイルスを拡散させてしまう恐れがあり、接種の手順など、綿密な接種プログラムの策定が重要になる。接種の実施に向けて、引き続き迅速な対応を求めたい。
 8日にうるま市で最初の感染が確認されて以降、これまでに殺処分された豚はうるま市と沖縄市の計7カ所の養豚場で9千頭を超えている。
 農業団体や有識者を集めた22日の「県CSF防疫対策関係者会議」は、さらなる感染拡大のリスクが排除できないとして、知事にワクチン接種を提言することで一致した。
 うるま市から北に生息する野生のイノシシに感染してしまうとウイルスの封じ込めが難しくなることや、沖縄本島は養豚場が近接して豚の飼養密度が高いため他県に比べて感染が拡大しやすい環境にあることなどがその理由だ。
 ワクチン接種による豚肉の安全性については、2006年まで国内のほとんどの豚にワクチンを接種して豚熱を予防しており、接種した豚の肉を人間が食べても健康への影響はない。消費者に誤解を与えない正しい情報の発信に努めることが大切になる。
 発生農場とその周辺で講じてきた防疫措置に加え、ワクチンの全頭接種により、沖縄での豚熱の発生は終息に向かっていくとみられる。だからといって対策をワクチンに依存し、養豚場の衛生管理が緩むようではいけない。
 アジアで感染が広がるアフリカ豚熱(ASF)の侵入を許せば、畜産業に与える打撃は計り知れないからだ。
 アフリカ豚熱は豚熱とは別の家畜伝染病で、有効なワクチンがない。仮に国内で発生すれば感染を防ぐには殺処分しかない。政府与党は、周辺の養豚場の健康な豚であっても「予防的殺処分」ができるよう法改正を進めている。
 家畜伝染病の予防対策では、空港・港湾での検疫体制と併せ、各農家が養豚場の消毒を徹底しウイルスが家畜に接触しないようにすることが重要になる。
 今回、豚熱の感染が最初に確認された農場では、年末に豚の不審死が出てから通報まで間隔が開いてしまい、餌にしていた食品残さも加熱処理していなかった。農家が守るべき「飼養衛生管理基準」が徹底されていなかった。
 全ての農場で飼養衛生管理基準が順守されるよう、農家の意識向上と行政による指導の強化が求められる。衛生管理を徹底すれば、豚の肥育環境が改善され、肉質の向上など、生産性の向上につながることも意識したい。