<社説>西表で入島制限 自然保護と観光の共存を


社会
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 世界自然遺産候補地の竹富町西表島で、観光客の入島上限人数の基準値を年間33万人とすることが決まった。夏季などのピーク時は1日当たり1230人とする。

 観光客が増加している県内で、入域制限を設けるのは初めてだ。ツアー客が増えれば、地域経済は潤う。しかし、地域の許容量を超えて観光客が押し寄せれば、その魅力である自然環境を破壊し、住んでいる人々の生活環境をも悪化させる。
 豊かな森と、イリオモテヤマネコに代表される希少な動植物の宝庫である西表島を、世界の宝として守るための決定である。持続可能な観光地としての価値を維持するためにも決定を歓迎したい。
 西表島は世界自然遺産への推薦が決まっている「奄美大島・徳之島・沖縄島北部および西表島」に含まれ、原生状態に近い亜熱帯性常緑広葉樹林や国内最大規模のマングローブ林などがある。イリオモテヤマネコは、島が大陸との分断、連続を繰り返す中で独自の進化を遂げた希少な固有種で、“ヤマネコの生息する世界最小の島”西表島だけに生息する。
 その自然景観は多くの観光客を呼び、人口約2400人の西表島に、最も多かった15年には約38万8千人が訪れた。一方で、イリオモテヤマネコなどの希少動物が輪禍の犠牲になったり、自然環境に配慮せずに観光客が森や川に立ち入ったりする問題が指摘されていた。また観光客によるごみの増加など解決すべき課題は多い。
 世界自然遺産に登録されれば観光客が急激に増加するのは過去の例からも分かる。1993年に登録された屋久島は、20万人だった観光客が2007年には40万人を記録するほど増えた。地域振興に貢献する一方で、オーバーツーリズムと呼ばれる課題も発生している。野生植物の盗掘やごみの投棄、ごみによる野生動物の意図せぬ餌付けが問題になり、登山の経験のない観光客の入山によって遭難者も増えた。
 観光客の増加が本来の自然や住民の生活環境を壊してしまっては本末転倒だ。地域の許容量に見合った数の観光客を受け入れ、環境の激変を避けつつインフラ整備や自然保護策を進めていくことが理想であろう。もちろん、訪れる人たちのマナーも問われる。
 05年に世界自然遺産に登録された北海道の知床は観光客の歩行ルートを限定したり、ヒグマの活動期には専門の有料ガイドを付けることを義務化するなどの対策を講じて、自然が荒らされるのを最小限にとどめようとしている。自然保護と観光振興の両立という難しいテーマに各地が知恵を絞る。
 竹富町は4月から、町の基準を満たした事業者にのみ自然観光事業を認める免許制を導入する。入島制限とともに、しっかりとしたルールを作って西表島の自然を守りたい。