<社説>ストーカー禁止令増 対策推進し被害の根絶を


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 ストーカー行為などによる被害が後を絶たない。弱い立場にある人たちが安心して相談できるような環境を整えていかなければならない。

 沖縄県警がストーカー行為の加害者に対し、被害者への接近や連絡を禁じるなど強制力のある「禁止命令」を2019年に出した事例は17件に上った。14~18年の5年間は計7件で、急増している。
 19年に県警に寄せられた付きまとい行為などストーカー関連の相談件数は前年比35件増の152件となった。このうちストーカー規制法違反などで摘発されたのは同6件増の23件だった。
 増加の背景について県警は「軽微な事案でも急展開を見せることがある。緊急性のある事案では逮捕権が行使できる禁止命令を積極的に運用した」と説明している。
 ストーカーなどに対する対策の強化と比例して実態の把握が進み、相談も増加傾向にあるという側面も確かにあろう。だがストーカーなどの問題が長年議論されているにもかかわらず、一向に被害がなくならないという現実をまず直視する必要がある。
 ストーカー被害では、警察から警告を受けた加害者の大半は付きまとい行為をやめるというが、凶悪事件に発展する場合も少なくない。訴えがありながら、被害を止められなかったケースもある。
 19年4月に北谷町のアパートで米兵の男が住人の女性を殺害した事件では、県警が米憲兵隊(MP)から通報を受け、女性をドメスティックバイオレンス(DV)やストーカー事案の保護対象者に指定していた。こうした痛恨事を忘れてはならない。
 埼玉県桶川市で1999年10月、女子大学生猪野詩織さんがストーカー被害の末に刺殺される痛ましい事件が起きた。警察の対応が問題となり、翌年成立したストーカー規制法のきっかけになった。
 事件から20年余。再発防止を訴え、全国で講演を続ける父憲一さんは「ストーカーを『男女の痴話げんか』と矮小(わいしょう)化してはいけない。みんなで助け合い、安心の輪をつくるべきだ」と指摘する。
 被害の訴えに対して警察の対応が後手に回ることがあってはならず、被害者に寄り添った姿勢が何よりも求められている。一方で、警察任せとせず、関係機関や専門家など社会全体で関与を深めていくことも重要だ。
 把握できた被害はあくまで一部であり、再発や報復を恐れて誰にも相談できずにいる人たちも多いはずだ。会員制交流サイト(SNS)などを通じた「ネットストーカー」被害も拡大している。被害者が声を上げやすいような相談・支援態勢づくりに改めて知恵を絞りたい。
 新たな被害を生まないような加害者対策ももちろん不可欠だ。刑罰に頼らず、カウンセリングによる治療や更生など実効性のある取り組みを進めなければならない。