<社説>検事定年法解釈変更 国家を私物化したいのか


社会
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 法治主義を踏みにじる暴挙と言うほかない。これがまかり通れば、「安倍1強」どころか、独裁への道を開くことになる。

 黒川弘務東京高検検事長の定年延長を政府が決めたことを巡り、安倍晋三首相は従来の法解釈を変更したと明らかにした。
 定年延長は国家公務員法を適用した措置というが、1981年の衆院内閣委員会で人事院幹部は、国家公務員法が定める定年制は検察官には適用されないと答弁していた。
 安倍首相は検察官について「国家公務員法の定年制は検察庁法により適用除外されていると理解していたものと承知している」と認めた。その上で「なお検察官も一般職の国家公務員であるため、今般、検察庁法で定められている特例以外については一般法たる国家公務員法が適用されると解釈することとした」と言明した。
 専門家は「立法時に国会で説明した法解釈は、誤りが判明したことが分かったときなど、特別な事情がない限り変更は認められない」と指摘している。
 法律に基づき、法律に従って行政を行うのが法治国家の基本だ。内閣による恣意(しい)的な解釈の変更は、法制度の安定を揺るがす。
 定年延長は、首相官邸の信頼が厚いとされる黒川氏を検事総長に就任させる人事を前提にした特別扱いとみられている。息のかかった人物を検察のトップに据えることで政権中枢への訴追を避ける狙いがあるのではないか。
 というのも、前法相とその妻の公選法違反疑惑、IR汚職事件、安倍首相主催「桜を見る会」を巡る疑惑など、政権を取り巻く状況は疑惑のオンパレードだからだ。
 検察には本来、こうした疑惑の解明に立ち向かい、違法行為を摘発する責務がある。政治から高度な独立性が求められるのは言うまでもない。この役割を無視し、支配下に置こうとする動きは、国家の私物化以外の何物でもない。
 定年延長は、検事総長人事だけではなく、検察全体の人事にも影響する。検察庁はこれを許してはならない。検察の不偏不党・厳正公平の姿勢が揺らげば、権力者の手先にもなりかねない。
 首相官邸が省庁幹部の人事を握った結果、首相や周辺の権力が強まった。森友学園、加計学園の問題を契機に、多くの国民が「安倍1強体制」に厳しい視線を注ぐようになった。しかし状況は改善するどころか、政権の暴走が目立つようになった。今回の露骨な検察人事への介入はそれを物語る。
 内閣が立法の趣旨を無視して勝手に法解釈をねじ曲げることは、許されない。法を制定した立法府をないがしろにする態度は尊大の極みだ。
 与党内から問題視する動きが表れないのは、国会議員の質の低下を象徴しており、危機的状況と言えよう。