<社説>クルーズ船集団感染 有効な防護策講じたのか


社会
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 クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で新型コロナウイルスの感染が広がったことに対し、内外から批判が強まっている。

 「ダイヤモンド・プリンセス」を巡っては、1月に下船した香港人男性の感染が今月1日に判明した。政府は3日から横浜港で乗客乗員約3700人の健康状態の確認を進め、症状のない人に船内待機を求めた。ところが、缶詰めにされている間に多数の感染が判明した。なぜそのような状況に立ち至ったのか。
 船内で適切な感染防止対策が取られておらず、医療従事者の安全対策も不十分だと、現場に入った専門家は警鐘を鳴らす。検疫官に続いて厚労省職員までもが感染したのは起こるべくして起きた事態と言えよう。
 乗員乗客を守るため、どのような措置が船内で講じられていたのか。感染症の専門家の指導、助言は十分に受けていたのか。反省すべき点が多々あるはずだ。実態を詳細に検証し、今後の防疫対策に生かさなければならない。
 クルーズ船には日本や香港、台湾を含め56の国と地域の人たちが乗船していた。5日のウイルス検査で10人の陽性が確認された後、感染者は増え続け、19日には621人に達した。
 中国を除く感染者のうち過半数を占めている。「第二の感染中心地」と米メディアは伝えている。世界保健機関(WHO)は「劇的な増加」が見られると述べていた。
 結果からすれば、「過去に例を見ない失敗」とニューヨーク・タイムズ紙が指摘したのも無理はない。症状のない乗客乗員を2週間船内に閉じ込め続けた対応には疑問が多い。SNSで窮状を訴える乗客が相次いだ。
 菅義偉官房長官は記者会見で「適切だと思っている」と強調したが、そう判断する十分な根拠が示されない中では、説得力を持ち得ない。
 そもそも初期対応からして不適切だった。途中で下船した香港人男性の感染が1日に判明した後、5日朝になるまで個室での待機を乗客に求めず、後手に回った。できるだけ早い段階で、ビュッフェの中止など、対策を強化するようクルーズ船側に強く促すべきだった。
 クルーズ船乗客の感染という不測の事態に対し、政府の腰は重く、臨機応変に対処できなかった。柔軟性を欠いた保健衛生行政の実態があらわになったと言えるだろう。
 「ダイヤモンド・プリンセス」は1日に那覇に寄港した。その際に船客を乗せた60代の女性タクシー運転手に加え、別の60代男性運転手の感染も判明した。県民一人一人が予防に努めることが大切だ。
 高齢者を中心に乗客らの下船が19日から始まった。過酷な船内待機を余儀なくされた人たちから政府が意見、要望などを聴いて問題点を整理することも必要だ。同じ失敗を繰り返してはならない。