<社説>新型コロナ休校要請 「全国一斉」の根拠説明を


社会
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 あまりにも唐突で場当たり的と言わざるを得ない。

 安倍晋三首相が、新型コロナウイルスの感染防止のため3月2日から春休みに入るまで全国の小中学校、高校や特別支援学校を臨時休校にするよう要請する方針を打ち出したのである。
 萩生田光一文部科学相は「専門家から、学校が集団感染のリスクが高いとかねて意見があり、政府が大方針を示した」と理由を説明する。
 だが、感染者が出た都道府県だけでなく、1人も確認されていない県を含め、一律に休校を求める必要があるのか。混乱を拡大させるだけではないのか。一斉休校の科学的根拠をしっかりと説明することが不可欠だ。
 新型コロナウイルスを巡るこの間の政府の対応は後手後手だった。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で乗員乗客を船内に隔離したものの、封じ込めに失敗した。未曽有の事態に対処できず右往左往する政府の無策ぶりは日を追うごとに鮮明になっている。
 一斉休校の要請は、高まる批判を払拭(ふっしょく)する狙いがあるとみられるが、短兵急で稚拙な印象は否めない。知事や市長などから戸惑いや懸念、批判の声が出た。「家庭の負担が大きい」などとして要請に従わない自治体もある。かえって指導力のなさを露呈した。
 文科省が一斉休校の要請を通知する一方で、厚生労働省は小学生を放課後に預かる放課後児童クラブ(学童保育)などは原則として開所するよう都道府県に通知した。ちぐはぐな対応に映る。
 休校による保護者の負担は大きい。学習に遅れが出る。学校現場は混乱している。少なくとも、もっと早い段階で休校要請の用意があることを周知しておくべきだった。
 首相は、休校に伴うさまざまな課題について「政府として責任を持って対応する」と明言した。きめ細かな対策が欠かせない。
 「急速な拡大の瀬戸際にある」と専門家は指摘するが、どこまで感染が広がっているかは分かっていない。ウイルスの有無を調べるPCR検査の体制が整っていないからだ。検査費用の公的医療保険適用を含め、必要な対策が大きく立ち遅れている。
 首相周辺の危機意識も薄い。秋葉賢也首相補佐官は首相が全国的なイベントの自粛を要請した26日の夜、地元仙台市で出版記念パーティーを開いた。集団感染が起きやすいとされる立食形式だ。これでは示しがつかない。
 麻生太郎財務相は、臨時休校要請を巡り、働く母親などがいる家庭への対応を質問した記者に「つまんないこと聞くねえ」とつぶやいた。つまらないのは自身の態度だ。不謹慎としか言いようがない。
 首相は、一生懸命に取り組んでいるという印象を与えるためのパフォーマンスではなく、実効性のある方策を着実に実行してもらいたい。