<社説>新型肺炎の首相対応 国民の不安解消できない


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 新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の拡大を踏まえ、安倍晋三首相が記者会見した。だが内容は国民の不安や疑問に応えるものではなかった。

 首相は2月27日、全国の小中高校に3月2日から春休みまでの臨時一斉休校を要請した。この唐突な要請は全国に混乱を広げている。沖縄でも休校の実施や期間などを巡り対応が分かれた。
 首相は休校要請について腹心の今井尚哉首相補佐官らごく一部と独断で決めたという。首相側近の萩生田光一文部科学相は全国一律の長期休校案に抵抗し、菅義偉官房長官らも疑問を示していた。
 首相は29日の会見で「万が一にも子どもの集団感染を起こしてはならない」と休校要請に理解を求めたが、具体的な理由は示さなかった。
 急に言われても小さな子どもを置いて仕事に行けない保護者はどうすればよいのか。一斉休校が始まる今朝もまだ困っている人は少なくない。休んだ間の賃金の心配もある。卒業式前の大切な時間を奪われ、悲しむ子もいる。
 性急な判断が国民生活や学校現場にどう影響するのか。首相にはそうした想像力が欠如していたに違いない。突然の休校要請について「断腸の思い」と釈明し、休職する保護者の所得減少対策として新たな助成金創設を表明したが、具体的な説明はなかった。
 土曜日夕に行われた会見は、わずか30分余りで打ち切られた。一方的にコメントを発表し、いくつかの質問に回答しただけだ。多くの国民の疑問に答えるものではない。これでは何のための会見なのか分からない。
 新型肺炎の政府対応は迷走続きだ。2月25日の基本方針では大規模イベントの一律自粛要請はないとし、休校の適切な実施を都道府県の判断に委ねていた。曖昧な内容が批判されると26日には大規模イベントの2週間の中止・延期要請などに転換し、27日には全国一斉休校を要請した。
 突然の方針転換には、「桜を見る会」などの問題で政治不信が渦巻く中、東京五輪に向け首相の強い指導力を演出する狙いがあるとの指摘もある。危機管理対応を政権浮揚に利用することが許されるはずもないが、むしろ一連の対応からは最も冷静であるべき人の右往左往ぶりが混乱に拍車を掛けているように映る。
 感染拡大を防げるか否かはこの1~2週間が瀬戸際とされるが、一斉休校は専門家からも効果に懐疑的な見方がある。子どものいる看護師が出勤できなくなり、医療崩壊を招きかねないとの懸念もある。状況に応じた地域ごとの休校が現実的ではないか。
 まず急ぐべきはウイルスを高精度で検出するPCR検査の民間実施態勢を早急に整備することである。高齢者の感染対策なども後手に回っている。指導者の迅速かつ的確で地に足の着いた対応が求められることは言うまでもない。