<社説>和牛DNA不一致 実態解明し再発を許すな

 優秀な種雄牛である「安福久(やすふくひさ)」の精液から人工交配で生まれたとして高値で取引されている子牛のDNA鑑定をすると、安福久とは血統が違っていた。そうしたDNAの不一致が久米島町から出荷された子牛で相次いでいることが、本紙の取材で判明した。

 和牛の霜降りの肉質や肉量は血統で決まり、特に種雄牛の影響力が大きいとされている。血統の証明に疑義が生じている今回の事態は、久米島だけにとどまらず、国内各地に子牛を供給している沖縄の畜産業全体の信用を失墜させかねない重大な問題だ。
 久米島家畜市場に出品された安福久の血を引く子牛について、昨年6月と10月、11月、12月に「血統矛盾」の指摘が購入農家から寄せられた。県中央家畜保健衛生所が種付けした家畜人工授精師に立ち入り検査し、別の牛のDNA鑑定を県家畜改良協会に依頼したところ、安福久と血統が違っている牛がほかにもいることが分かった。
 さらに、別の人工授精師2人が種付けした牛でもDNAの不一致が見つかっている。
 人工受精師は本紙の取材に、不正ではなく、再種付けした際に生じた作業ミスだと答えている。それでも、21日間の発情期間は異なる精液で種付けすることは禁じられている。本来なら起きるはずのないミスだ。適正な管理のため直ちに記載する必要がある授精証明の台帳記入も、数カ月遅れていたという。
 人工交配で生まれた牛のDNAが父牛と一致しなかった問題は、昨年9月に宮城県でも発覚した。石巻市の獣医師が種付けした和牛258頭を宮城県が検査したところ、30頭でDNAの不一致を確認した。宮城県は昨年12月に獣医師を家畜改良増殖法違反の疑いで刑事告発している。
 昨年は、受精卵や精液が不正に中国に持ち出される事件があり、農林水産省は和牛の「遺伝資源」保護のため規制強化の法改正を進めている。
 沖縄の子牛の競りに全国各地から購買者が集まり、競り落とされた子牛が有名産地のブランド和牛として肥育されている。島々に家畜市場があり、子牛生産は離島県を支える重要な産業となっている。今回のずさんな授精管理で供給産地としての信用を失えば、畜産の沖縄ブランドに与える打撃は計り知れない。
 特に畜産業界は2001年の牛海綿状脳症(BSE)の国内発生で甚大な被害を受け、生産履歴を公表するトレーサビリティー制度など、消費者への安全・安心の提供に努めてきた。透明性の確保は極めて重要だ。
 県はDNAの不一致がどこまで広がるのか実態解明を急ぎ、補償の在り方を含め議論を進める必要がある。その上で県全体の人工受精師の業務体制を検査し、ミスや不正が起きないための再発防止策を速やかに確立すべきだ。
 消費者や市場に対する誠実な対応が求められる。



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