<社説>9月入学制 今議論すべき問題なのか


社会
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 新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、新学期の時期を5カ月ずらす「9月入学制」の導入を求める声が全国の知事などから出た。

 安倍晋三首相は29日の衆院予算委員会で「これくらい大きな変化がある中では、前広にさまざまな選択肢を検討したい」と述べている。萩生田光一文部科学相も「大きな選択肢の一つ」と表明した。
 新型コロナの流行は今なお終息の見通しが立っていない。学校の休校が長期化している。子どもたちの学習の遅れが心配だ。長く休校する地域とそうでない地域で学力差が生じるという懸念もある。
 だからといって、いきなり9月入学制にしようというのは短絡的であり、議論が飛躍し過ぎている。
 導入するとなると、4月に会計年度が始まる官公庁、新入社員を採用する企業を含め、社会全体の仕組みに大きな影響が及ぶ。事は学校だけの問題にとどまらない。
 実現には莫大(ばくだい)なエネルギーが必要だ。平時ならまだしも、コロナ禍で社会・経済活動が収縮する状況下で、そこに振り向けられるだけの余力があるとは思えない。
 今、教育行政が最優先で取り組むべきなのは、コロナ禍のさなかであっても、子どもたちに学びを提供できる仕組みを整えることだ。非常時の効果的な学習指導の在り方を追究しなければならない。
 ICT(情報通信技術)を活用したオンライン学習を全国に普及させるなど、取り得る全ての方法を検討し、具体化すべきだ。
 学校が休校になっているからといって、いつまでも学習の機会を奪ったままでいいということにはならない。「教育を受ける権利」を保障するため、インフラなどを充実させるのは国の責務だ。
 休校中の児童生徒には宿題が与えられ、家庭学習が奨励されている。指導する人が周りにいるならいいが、そうでないケースがはるかに多いのではないか。
 子どもを取り巻く環境によって学習進度に差が出る。休校が長引けば長引くほどその影響は深刻になり、学力差として現れるだろう。
 入学や始業を9月にずらすことが解決策になるという保証はどこにもない。コロナ禍が収まらず、休校が予想を大きく超えて長期化する可能性も否定できないからだ。
 政府に求められるのは、そのような最悪の事態をも想定して対策を講じることだ。
 海外では秋入学が主流だ。この機会に世界標準に合わせた方がいいという意見もある。議論は必要であり、大切なことだが、今そこに時間とエネルギーを割くべきなのか。
 いずれにしても、実施するには国民的合意が不可欠だ。新型コロナのどさくさに紛れて短期間で結論を出せるような単純な問題ではない。
 コロナ禍によって現に起きている教育の格差を是正することこそ急務だ。