<社説>検察庁法改正に抗議 国民の声に耳傾け撤回を


社会
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 会員制交流サイト(SNS)のツイッター上で、9~10日にかけ、「検察庁法改正案に抗議します」というハッシュタグ(検索目印)を付けたツイートが相次ぎ、一時は380万件以上を記録した。

 検察庁法の改正は国家公務員法改正案に含まれている。8日に衆院内閣委で審議に入ったが、自民党は森雅子法相への質疑を拒否した。法相抜きの審議はあり得ない。本来なら法務委で議論すべきだ。
 抗議の広がりは、成立を急ぐ政府に対する国民の強い不信感の表れだ。日頃、政治的な発言をしない人も声を上げているようだ。「これだけは黙って見過ごせない」「民主主義とはかけ離れた法案」「三権分立が壊される」「(コロナ禍のさなかの)火事場泥棒」といった意見が相次いだ。
 女優の小泉今日子さんや作家のメンタリストDaiGoさん、歌手のきゃりーぱみゅぱみゅさんら著名人による投稿もあった。
 政府は、こうした国民世論を重く受け止め、検察官人事への恣意(しい)的な介入を可能にする法改正については速やかに撤回すべきだ。
 改正案は、検事総長以外の検察官の定年を63歳とする現行の規定を65歳に引き上げる一方、63歳に達した幹部の「役職定年制」導入を定める。
 ただし「公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるとき」は63歳になった後も最高検の次長検事、高検検事長の役職を延長できる。地検トップの検事正も「法務大臣が定める準則で定める事由がある」場合に同様の措置が可能になる。
 「内閣が定める事由」「法務大臣が定める準則」がどういう内容になるかは決まっておらず、法の運用を決定付ける肝心な部分が不明なままだ。それ自体、適切さを欠く。
 仮に厳格な要件が付されたとしても、解釈し運用するのは内閣や法相だ。事実上、いくらでも人事に介入できる余地はあろう。今般、検察庁法に反し、黒川弘務東京高検検事長の勤務を延長したのはその疑念を裏付けるものだ。
 法解釈を変更し国家公務員法を適用したと政府は強弁したが、同法も無制限に定年延長を認めるわけではない。
 人事院規則は、後任を容易に得られないとき、勤務環境から欠員補充が容易でないとき、担当者の交代で業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき―と条件を挙げる。高検検事長にはどれも当てはまらないのは明らかだろう。
 検察庁法は、原則として検察官がその意思に反して官を失うことはないと定める。外部の圧力から守り、公正な職務の執行を担保するためだ。内閣等の意向で人事に介入し厚遇も冷遇もできる仕組みは検察の独立を脅かす。
 今や法曹関係者のみならず、幅広い層から危機感を訴える声が上がっている。政府は国民の声に耳を傾けるべきだ。改悪の強行は許されない。