<社説>検察庁法今国会断念 先送りではなく撤回せよ


社会
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 理不尽な法案に対したくさんの人々が抗議の声を上げたことが、政府を方針転換に追い込んだ。

 時の政権の判断で検察官の定年延長を可能にする検察庁法改正案について、政府・与党が一転、今国会での成立を断念したのである。
 とはいっても、法案を取り下げるわけではない。秋の臨時国会で審議する構えだ。反対の世論が沈静化するのを待つという考えなら、見当違いも甚だしい。いくら時がたとうが、検察の独立性と中立性を揺るがす法案の性質は何も変わらないからだ。
 会員制交流サイト(SNS)のツイッターには「検察庁法改正案を廃案に」という新たなハッシュタグ(検索目印)を付けた投稿が相次いでいる。政府は国民の声を真摯(しんし)に受け止め、検察官の定年と役職定年の延長を可能にする法改正は撤回すべきだ。
 法案の最大の問題は、政権の意に沿わない幹部はことごとく退任させ都合のいい人物だけを留任させることが可能になる点だ。検事総長は最長68歳まで役職を続けられる。
 検察官は一人一人が独立の官庁として検察権を行使する。あらゆる犯罪を捜査でき、被疑者を起訴するかどうかを決定する権限を握っている。「準司法官」ともいわれる。
 政権による恣意(しい)的な人事介入が常態化すれば、歓心を買おうと迎合的な動きをする幹部が現れないとも限らない。その結果、起訴すべき事案を不起訴にしたり、不起訴にすべき事案を起訴したりする事態が起きないと誰が言い切れるだろうか。
 こうした懸念を生じさせる法改正はそもそも不適切であり、やるべきではない。
 現に霞が関で官僚による忖度(そんたく)・迎合がまん延していることは周知の通りだ。財務省では森友学園問題を巡って決裁文書の改ざんまで指示された。同様の風潮が検察にまで及べばどうなるだろうか。
 政治権力と距離を置き、厳正公平、不偏不党を貫けるかどうかは、全職員を指揮監督する検事総長の姿勢によるところが大きいだろう。
 森雅子法相は役職に残す特例の要件について「具体的に全て示すのは困難だ」と15日の衆院内閣委で答弁した。これでは白紙委任を求めるようなものである。人事権を通して検察組織をコントロールしたいという政府の意思は明確だ。法相は「民主的統制を及ぼすため内閣や法相が人事権を持っている」と言明した。
 確かに、検察による不当な権限の行使に歯止めをかける仕組みは強化する必要がある。定年延長とは別に、議論を深めるべきだ。
 公明党の山口那津男代表は、法案の趣旨が国民に伝わるよう政府として丁寧に説明していただきたい―とツイートしたが、趣旨を理解しているからこそ反対の世論が湧き起こっているのである。自民、公明両党の議員はまず、国民の声に耳を傾けることだ。