<社説>戦後75年の慰霊祭 平和の継承へ知恵絞ろう


社会
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 沖縄戦の終結から75年。愚かな過ちを二度と繰り返すことのないよう決意を新たにする節目の年だ。だがその鎮魂の季節にも新型コロナウイルスが影を落としている。

 県が毎年6月23日の慰霊の日に糸満市摩文仁の平和祈念公園で開く沖縄全戦没者追悼式は、規模を大幅に縮小することになった。新型コロナウイルスの感染防止が理由だ。
 例年は一般県民を含めて5千人程度が参列しているが、今年は安倍晋三首相らの出席も求めず、知事や県議会議長ら県内招待者16人程度に出席を絞り込む。玉城デニー知事は「それぞれの場所で追悼し、平和を誓う日にしてほしい」と呼び掛けた。
 沖縄戦最後の激戦地とされる同地域へ足を運ぼうと考えていた人は例年以上に多いかもしれない。規模縮小は仕方ないが、残念でならない。
 県は規模縮小に併せて会場を祈念公園内の広場から、国立沖縄戦没者墓苑に変更すると発表した。だがこれには異論もある。
 沖縄戦で日本軍は本土への米軍侵攻を遅らせるための持久作戦を取った。沖縄は本土防衛や国体護持のための「捨て石」となり、住民の4人に1人が命を落とした。
 国立墓苑への変更について研究者からは、住民の犠牲を天皇や国家のための「殉国死」として追認することにもつながるとして、公園内の県の「平和の礎」など別の場所での開催を求める声がある。沖縄戦の経緯を見れば、その主張は理解できる。
 変更について県は参加が少なく、広い場所が不要であることや国立墓苑には住民ら18万余の戦没者の遺骨が収められていることを理由に挙げる。県遺族連合会は県の判断に理解を示している。
 沖縄が祈りに包まれる一日の中核となる行事であり、より多くの合意、納得の上に行うべきであることは言うまでもない。再検討の余地はないのか。県は理由を丁寧に説明し、柔軟に対応してほしい。
 一方、市町村主催の慰霊祭も新型コロナウイルスの直撃を受けている。琉球新報の調べでは主催する慰霊祭がある35市町村のうち、既に5町村が中止を決め、規模の縮小も15市町村に上った。
 遺族会などが開く各地の慰霊祭も中止や縮小に追い込まれている。感染拡大防止の観点からやむを得ないが、無念に思う人も多いことだろう。
 コロナは児童生徒の平和教育にも影響している。休校の長期化で平和学習の時間確保が難しくなった。再開した平和資料館も団体客の受け入れや高齢の戦争体験者との交流などは控える。県外を含めた一般客も激減している。
 コロナ禍での戦争体験継承が新たな課題となる中、インターネットの活用などが注目されている。数少なくなった体験者の証言に比較的容易にアクセスできる利点もある。平和のリレー継承へ知恵や工夫を社会で共有したい。