<社説>中国の安全法制審議 香港の民意に沿う自治を

 言論の自由を香港の人々から奪う頭越しの強権的立法としか言いようがない。

 中国の全国人民代表大会(全人代)で香港の国家安全法に関する決定草案が審議入りした。草案には中国政府の治安機関が出先機関を設立できるとの規定が盛り込まれた。
 成立すれば、中国政府が治安維持に介入できるようになり、政府を批判する人々が取り締まりの矢面に立たされることが十分想定される。
 香港には社会主義の中国に資本主義を併存させる「一国二制度」が適用されてきた。1997年に英国から返還され、高度の自治を内外に約束してきた。憲法に相当する香港基本法は返還後50年は言論や集会の自由を保障している。
 こうした自由、自治など、法制度上の保障が暗転したのは、昨年、中国本土への容疑者の引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案が浮上したのがきっかけだ。
 それ以前にも2014年に行政長官選挙を巡り民主派排除の制度改革が示されたり、16年には反中国派議員2人の資格が剥奪されたりした。民主政治を脅かす動きは年を追って顕在化しつつあった。
 逃亡犯条例の改正案は香港の行政長官が撤回したが、今度は中国政府が露骨に直接に民主政治への介入を始めたと言えよう。法律には中央政府の転覆や外国による干渉などの禁止が規定されている。
 15年には中国に批判的な書籍を取り扱う書店の関係者らが失踪し中国で拘束された。表現の自由の観点からも法律の拡大解釈による人権の侵害が十分に懸念される。
 これまで中国政府は、香港立法会(議会)による立法措置を待つ姿勢を維持してきた。ところが、今回の国家安全法制は香港の人々の意思を顧みないばかりか、立法会の頭越しに審議を進めている。自治権の侵害も甚だしい。しかもほぼ密室の審議だ。民主的な手続きを無視している。
 強行な立法の背景には9月の立法会選挙があるとみられている。選挙で民主派が過半数を占めれば、中国政府が望む法整備ができなくなると恐れているという。そのため先手を打つ形で全人代で立法の先例を作り上げようとしているのではないか。
 国家安全法制は、28日の全人代最終日に決定が採択され、その後、関連法が制定される方向だ。全人代が直接制定し、香港立法会での審議を経ずに施行されるという。
 再考を促す欧米諸国に対し、中国政府は「香港と中国への内政干渉だ」と反発する。だが昨年11月の区議会選で民主派が圧勝したことからも民意は明らかだ。香港の人々の声に耳を傾け、普通選挙の実現など五大要求の実現にこそ力を注ぐべきだ。
 このままでは「一国二制度」が骨抜きにされかねない。日本を含む国際社会は一致して立法化の断念を中国政府に働き掛け、高度な自治が損なわれないように求めるべきだ。



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