<社説>「国家安全法」成立 香港の自治は香港人に


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 中国政府による香港の抗議デモ取り締まりなど、統制強化を目的とした「香港国家安全維持法」が成立した。

 香港の将来に関わる問題であるにもかかわらず、香港立法会(議会)で議論することなく決められた。1997年の返還後も50年間は「高度な自治」を保障するとした「国際公約」も順守していない。香港の自治は香港人に任せるべきである。
 香港の憲法に当たる「香港基本法」は、香港で社会主義制度や政策を実行せず、外交と国防を除き、行政管理権や司法の独立を認めている。香港返還の際に旧宗主国の英国と中国の間で合意した「一国二制度」である。
 中国の専管事項は国防と外交だけであり、治安など国家安全に関する事項は基本法によって、香港側が制定することになっている。
 今回成立した香港国家安全維持法によって、中国政府の出先機関「国家安全維持公署」を新設し、香港で治安維持を担う。香港政府がつくる「国家安全維持委員会」は中国政府の「監督と問責」を受け、中国政府の顧問を受け入れる。
 香港政府は中央政府の監督下に置かれ、行政管理権が侵害される。香港国家安全維持法は、国家分裂や政権転覆、外国勢力と結託して国家の安全に危害を加える行為を処罰対象とする。中国、香港への制裁を外国に要求することも処罰対象となる。
 国家安全に関する事件の専門裁判官は、行政長官が指名する。現長官の林鄭月娥(りんていげつが)氏は、事実上、中国に指名された人物である。事件の容疑者を訴追する政府側のトップが裁判官を自ら指名するのは、司法の独立の侵害である。
 沖縄側からみれば、かつての米国統治時代を想起させる。米国民政府を中国政府、琉球政府を香港政府に置き換えると共通点がある。
 沖縄を統治するトップの高等弁務官には、沖縄側の裁判官を任命する権限が与えられていた。沖縄側の判決が気に入らなければ、米国民政府裁判所に裁判を移すことができた。「友利裁判」「サンマ裁判」の事例がある。
 国家安全維持法は、香港の他の法律に優先すると規定されている。沖縄でも、米国民政府が制定する布令・布告が琉球政府の法令に優先した。集会やデモ、出版など表現の自由を布令で規制した。選挙で当選した瀬長亀次郎那覇市長を、布令によって追放したこともある。民主主義とは程遠い「布令政治」が、今の中国と重なる。
 早くも、2014年の香港大規模民主化デモ「雨傘運動」を率いた政治団体が解散を宣言した。
 中国は国際世論の厳しい批判を押し切り「内政干渉」と反発する。なりふり構わぬ香港への関与は、国際社会との溝をますます深くするだけである。これまで香港の発展を支えた「高度な自治」を保障すべきだ。