<社説>パワハラ規制法 実効性の確保が課題だ


社会
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 職場内でのいじめや嫌がらせなどのパワーハラスメント(パワハラ)の防止対策を義務づけるハラスメント規制法が施行された。まず大企業が対象となり、2022年度からは中小企業にも適用される。相談窓口の設置や事実関係の確認、ハラスメントを行った人への適正な措置など10の対策を講じなければならない。

 何がパワハラに当たるのかを示した指針も作成されたが、盛り込まれた事例には曖昧さの残る表現も多く、線引きが難しい。その実効性をどう確保していくかが課題だ。さらに規制法には罰則がない。罰則が定められ、保護対象も広い国際基準に近づけなければならない。
 規制法ではパワハラを(1)優越的な関係を背景とした(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により(3)就業環境を害すること―の全てを満たすものと規定した。指針では身体的または精神的な攻撃、人間関係の切り離しなど6類型に分け、類型ごとに事例を示した。例えば相手の人格を否定する言動や、必要以上に長時間にわたる厳しい叱責(しっせき)を繰り返す「精神的攻撃」、職場で孤立させる「人間関係からの切り離し」などだ。
 ただ、該当しない事例も盛り込まれ、業務上の指導だとの反論を許す余地があると指摘される。例えば「精神的な攻撃」では「社会的ルールを欠いた言動が見られ、再三注意しても改善されない労働者を一定程度強く注意すること」はパワハラに当たらないとされる。「一定程度」の範囲が曖昧で、恣意(しい)的な判断を許してしまう。
 保護対象は正社員のほかパートや契約社員なども含まれた。一方で、フリーランスや就職活動中の学生は外れた。企業側が対策を怠れば行政指導の対象となり、企業名を公表される場合があるが、罰則はない。
 国際労働機関(ILO)が昨年6月に採択した職場のハラスメント禁止条約はすべての被害者を保護対象にしている。企業側に比べて立場の弱いフリーランスや就活生は被害に遭いやすいとも言えよう。保護対象に加えるべきだ。
 また禁止条約は民事、刑事上の制裁を設け、監視の仕組みや被害者の救済支援策を確立することも義務づけている。日本は禁止条約の採択には賛成したものの、批准には至っていない。国内法で罰則などの制裁規定を設けることに企業側からの根強い反発があるからだ。
 パワハラの被害は県内でも増えている。沖縄労働局に18年度に寄せられた相談のうち「いじめ・嫌がらせ」に関する相談は690件と最も多く27%を占め、01年度以降、最多を記録した。
 パワハラによって心身に深い傷を負い、離職や自殺にまで追い込まれる事例がある。そうした悲劇を生まないために、働く人の人権を守り、働きやすい職場環境をつくらねばならない。