<社説>相模原殺傷4年 共生社会へ課題克服を


社会
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 相模原市の知的障がい者施設「津久井やまゆり園」で入所者19人が殺害され、職員を含む26人が重軽傷を負った事件発生から4年を迎えた。

 事件を通して命の価値を線引きする発想が社会に衝撃を与えた。障がいの有無によって分け隔てられることのない共生社会(インクルーシブ)の実現に向け私たち一人一人に重い課題を突き付けた。課題を克服するために、事件を過去のものとせず差別の芽を摘む不断の努力が求められる。
 殺人罪などで起訴された元職員の植松聖被告に対し、横浜地裁は今年3月に死刑判決を言い渡し、植松被告が判決を受け入れたことで刑が確定した。
 植松死刑囚は裁判で「意思疎通を取れない人間は安楽死させるべきだ」などと、優生思想的な考えに基づき犯行を正当化する発言を最後まで変えなかった。事件前に「ヒトラーの思想が降りてきた」と話していた。
 ナチス・ドイツは「価値なき生命の抹殺」を掲げ「安楽死計画」を実施し、精神障がい者や知的障がい者を組織的に殺害した。被害者は20万人以上ともいわれる。殺害に精神科医師らが加担し、ドイツ精神医学精神療法神経学会は2010年、公式に謝罪した。
 植松死刑囚に共感するような声も少なくなく、社会にはびこる根深い優生思想を浮き彫りにした。死刑が確定したため、司法の場で真相究明の機会は失われてしまった。
 しかし、判決が確定したからといって、能力を基準にして命を線引きする考え方が消えたわけではない。
 特に政治に厳しい目がそそがれている。れいわ新選組で国政選挙擁立が想定されていた人物が7月上旬、少子高齢化対策として「命を選別しないと駄目だ」「高齢の方から逝ってもらうしかない」と発言した。除籍処分にしたとはいえ問題は深刻だ。
 他方、犠牲者が生活していた施設側の問題点も浮き彫りになった。
 神奈川県は今年5月、施設の運営実態に関し「一部の利用者に虐待の疑いが極めて強い行為が長期間行われていた」とする第三者委員会の報告書を公表している。
 障害者虐待防止法で正当な理由なしに身体拘束することを虐待としているが、報告書は、見守りが困難として身体拘束したケースを確認した。身体拘束の際に「切迫性」「非代替性」「一時性」の全てを満たすことが条件にもかかわらず、運営法人が一つでも該当すればよいと認識していたという。
 施設の実態と植松死刑囚の動機に関係性はあるのか。事件に至った過程について福祉や精神科医など専門家による真相究明を進め、再発防止措置を講じなければならない。
 障がい者と家族の恐怖や怒りと、社会全体の意識との間に落差があるのではないか。事件を風化させないために無関心であってはならない。