<社説>緊急事態再延長 今年は自重する旧盆に


社会
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 先祖の位牌をまつった仏壇の前に親類縁者が集い、重箱料理を味わいながら歓談する―。いままで当たり前だと思っていた旧盆の風景が様変わりする。

 玉城デニー知事は新型コロナウイルスの感染拡大を抑え、医療現場の逼迫(ひっぱく)状況の改善を図るため、県独自の緊急事態宣言を9月5日まで1週間再延長すると発表した。
 多くの人が集まり世代間の交流が増える旧盆は、特に、若者から重症化リスクの高い高齢者への感染を防がなければならない。感染の収束が見通せない中で、緊急事態宣言の再延長は当然だ。
 ただし、延長の決定が直前になってしまったために県外から帰省する人たちなどへの影響も大きいだろう。県は宣言を出すタイミングやその期間などが適切だったか、「第3波」に向けた教訓にするためにも検証が必要だ。県民は例年と違う旧盆の過ごし方で感染拡大を防がなければならない。
 県が緊急事態宣言を再延長した背景には、想定よりも感染が拡大し続けていることがある。県内は7月から新規感染が広がり、夜の繁華街や医療機関、福祉施設などでクラスター(感染者集団)の発生も相次ぐ。
 県は8月1日から15日までの独自の緊急事態宣言を出し、その後、29日まで延長した。県民が外出を自粛することで16日ごろをピークとして感染は収まるとみていたが、その後も1日20人以上の感染者が確認されている。
 問題は若年層から高齢者に感染が広がっていることだ。7月以降の新規感染者のうち、70代以上の高齢者は7月31日時点で5人だったが、8月27日には117人と急拡大した。8月だけで19人が亡くなっている。体力が落ち、既往症のある高齢者がより重症化している。
 県は今後、無症状の濃厚接触者へのPCR検査も再開し、この間に医療提供体制拡充と感染拡大防止策を図る。県全域を対象に不要不急の外出自粛を「お願いする」とし、県をまたぐ往来は慎重な対応を求めた。9月5日まで警戒を続けながら感染の収まりを見極める「警戒監視期間」とする。
 県医師会は旧盆の対応として集まるのは仏壇を管理する家族だけにし、訪問するなら短時間で済ませること、帰省は慎重にすること、料理は個別に分けることなどを呼び掛けた。
 旧盆は親類縁者が先祖への祈りをささげる場であると同時に沖縄の伝統行事を次世代に伝える場でもある。祈願の仕方やその意味、重箱料理の作り方など、世代間で伝統をつなげてきた。コロナを機に受け継がれるべきものを忘れてはならない。
 沖縄にはお年寄りを敬い、その知恵を継承するという伝統もある。そのためには高齢者を病の危険にさらしてはならない。今年は自重する夏で家族を守っていきたい。