<社説>中国のミサイル発射 日本は仲介外交に心血を


社会
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 中国が南シナ海に向け8月26日、中距離弾道ミサイル4発を発射した。中国は公式には認めてないが、香港の英字紙も26日朝に青海省などから南シナ海へ2発の弾道ミサイルを発射したと伝えた。

 米中間の貿易戦争に端を発する挑発だとすれば、極めて危険な行為だ。南シナ海の周辺国・地域の人々が巻き込まれかねない。もし対立が先鋭化すれば、日本国内で南シナ海に最も近い沖縄が米軍の前線基地として使われる可能性も否定できない。
 この問題で日本がなすべきことは徹底した外交努力以外にない。米中の仲介外交に、今こそ心血を注ぐべき時だ。
 南シナ海は、豊富な天然資源があるとされる海域だ。中国、台湾、ベトナム、フィリピンなどが領有権を主張している。しかし中国が独自の境界線「九段線」を引き、南シナ海のほぼ全域で領有権と管轄権を主張しているため領土紛争が生じている。
 この紛争に関して、国連海洋法条約に基づく仲裁裁判所は2016年7月、中国の独自の境界線「九段線」などの主張を「法的根拠がない」として退けた。しかし中国は、この判断を無視している。埋め立てた人工島に港や滑走路、レーダー施設を建設して実効支配し、軍事拠点化を進めていることは見過ごせない。
 米国も対抗する形で南シナ海に軍艦を派遣する「航行の自由」作戦を繰り返している。勢力圏の一方的拡張を進める中国の姿勢は目に余るが、米中による力ずくの覇権争いにエスカレートすれば、周辺国の人々の生命、財産にも関わることになり、許し難い。
 河野太郎防衛相は、中国のミサイル発射が伝えられた後の8月29日、エスパー米国防長官と会談した。中国の進出が強まる南シナ海情勢で危機感を共有したという。
 ただ懸念されるのは、会談で地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」計画の断念を巡り、新たなミサイル防衛体制の構築へ連携することも確認したことだ。
 米国防長官は会談に先立つ26日、演説で中国の南シナ海などでの挑発的行動が強まるとの懸念を示し各国に中国包囲網構築を呼び掛けた。
 米国には対中国包囲網の一環で、核兵器が搭載可能な新型中距離ミサイルを、沖縄をはじめ日本に配備する計画がある。この新型ミサイルはアショアのような迎撃型と異なり攻撃型だ。「アショア」断念のどさくさにまぎれて専守防衛の原則を逸脱するなどあってはならない。
 安倍晋三首相は、残る在任期間中に敵基地攻撃能力保有の方向性を示す意向を示したという。憲法の理念をないがしろにする専横ぶりは極まったと言わざるをえない。
 今なすべき政治的努力はアジア全体を見据え、南シナ海などの紛争にどう歯止めをかけるかだ。大国同士が無用な軍事的緊張を高めることがないよう知恵を絞るべきだ。