<社説>自民党総裁選 地方軽視の派閥「談合」


社会
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 安倍晋三首相の後継を決める自民党総裁選は、菅義偉官房長官、岸田文雄政調会長、石破茂元幹事長の3氏による構図となる。

 菅氏が立候補表明する前から、主要派閥は「談合」によって支持を決め、菅氏は圧倒的に優位に立つ。事実上の次期首相を選ぶ総裁選を、国会議員の動向で決めるというのでは、地方軽視の「密室政治」との批判は免れず、国民の信頼は得られないだろう。次期政権の正統性が問われる。
 1日に開かれた総務会は、党員・党友投票をせず両院議員総会で選出すると決めた。通常の選挙方式なら国会議員票と地方票が同数だが、今回は地方票の比率が26%に減り、国会議員による多数派工作が勝敗を分けやすくなる。
 菅氏支持の細田、麻生、二階などの5派閥や無派閥議員は、単純計算で議員票の7割を超える勢いだ。地方票を加えた全体でも5割になる。選挙の前から菅氏が圧倒的有利な情勢である。
 そもそも地方票が導入されたのは、派閥の数の力を背景にした総裁選出に党内外から批判が高まったからだ。2014年から国会議員票と同数に増やした。
 より民意に近いと言われる党員・党友の投票をせず投票簡略化にこだわるのはなぜか。
 執行部は、政治空白が生まれると説明する。しかし、小泉進次郎環境相は「政治空白が生まれるという話があるが、政府の組織は回っている」と反論している。執行部の説明は説得力がない。
 党員・党友投票を求め、所属議員3分の1を超える署名が提出されても執行部は受け入れなかった。投票簡略化への根強い反発を踏まえ、執行部は各都道府県連の3票の投票先を党員の「予備選」で決めるよう促す方針を示した。しかし、それでも菅氏優勢は変わらず「ガス抜き」に過ぎない。
 投票簡略化の真の狙いは、地方人気が高い石破氏を封じ込める狙いがあるとの見方が根強い。
 今回の総裁選は、安倍政権を継承するかどうかが焦点になる。5派閥の支持獲得に成功した菅氏は、2日の立候補表明で「安倍政権の取り組みをしっかり継承し、さらに前に進めたい」と明言した。経済政策「アベノミクス」をはじめ、少子高齢化対策、戦後外交の総決算、北朝鮮拉致問題、憲法改正など安倍政権の継承を挙げた。
 ところで、安倍政権は「1強」と呼ばれる強力な政治基盤を背景に、批判や異論、少数意見を排除し数の力で相手をねじ伏せてきた。
 辺野古新基地建設に反対する沖縄との向き合い方に「1強」政治の特徴が表れた。菅官房長官は新基地に反対する翁長雄志前知事との会談で「粛々」と建設を進める姿勢を示したことがある。立候補表明でも建設推進を強調した。安倍政権の継承によって沖縄の民意が無視され県民が分断されるのであれば願い下げだ。