<社説>コロナで採用手控え 人材確保へ柔軟な対応を


社会
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 琉球新報が県内売上高上位企業に2021年度の新規学卒者の採用計画を聞いたところ、回答を得た90社のうち5社が新型コロナウイルスの感染拡大による影響で採用を中止したことが分かった。今年より採用人数を減らすとした企業は25社で、新型コロナの一定の影響が見られる。

 経済の停滞による業績悪化などコロナ禍で企業の窮状が表れているとはいえ、学生の職業選択の機会が失われることは最小限に食い止めなくてはならない。雇用を守るため政府は企業支援に全力を挙げるとともに、学卒者の就職機会を保障する柔軟な対応を企業側にも求めたい。
 学生優位の「売り手市場」で進んできた近年の就職活動だが、今年は新型コロナで状況が一変している。
 リクルートキャリアの調査によると8月1日時点の全国大学生の就職内定率は81・2%で、前年同月に比べ10ポイント低下している。緊急事態宣言に伴う選考活動の一時停止などで各社の採用スケジュールが後ろ倒しとなった影響で、学生の内定遅れや就職活動の長期化が生じている。
 さらに、旅客需要の激減が長引く航空業界が選考の再開を断念するなど、本年度の新卒採用を見送る業種が出始めている。
 新卒一括採用が主流の国内にあって、学卒時に就職の機会が狭まる影響は計り知れない。バブル崩壊に伴う「就職氷河期」の就職難が現在まで尾を引いているように、新卒採用の縮小は影響が長期に及んでしまう。
 将来を担う人材の確保を止めることは企業の成長においてもマイナスで、苦渋の判断だろう。コロナの収束後に採用の再開に向かう際は、新卒一括採用にこだわらず人材獲得の幅を広げるなど、21年3月卒の学生が不利益にならない策を検討してほしい。
 企業の業績悪化から従業員の雇用を守るため、政府は雇用調整助成金の12月までの延長を決めた。国は経済対策や雇用支援に躊躇(ちゅうちょ)なく財源を出動することだ。民間の採用が狭まる懸念がある中で、国や自治体など公的部門で臨時採用を増やすといった緊急的な対策も有効なはずだ。
 他方で、新型コロナで私たちの働き方や生活は大きく変わり、その流れは今後も続く。コロナ後の社会で成長が見込める分野に雇用を誘導することは経済の成長戦略にもなる。感染症に強い経済や社会に向けて、現在の感染症対策でネックとなっている医療人材の拡充を政策的に後押しすることも欠かせない。
 就職活動を続ける学生にとって不安は大きいだろう。コロナ禍だからと就きたい職業を簡単にあきらめる必要はない。一方で、働く場所や会社の規模などにこだわらず、広く職種や企業を見つめ直す余裕も持ちたい。コロナ後の新しい経済社会に求められる資格、能力を磨くことを含め、前向きに行動してほしい。