<社説>ハンセン病遺体解剖 人命軽視の原因究明を


社会
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 熊本県の国立ハンセン病療養所「菊池恵楓園」で1911~65年に亡くなった入所者のうち、少なくとも389人の遺体が解剖されていたことが明らかになった。

 医学研究の名目で「解剖願」(同意書)を入所者から取るよう求めた時期があったことも判明した。説明が尽くされた上で入所者が「献体」に応じたのか。記録が少ない事情もあり、判然としないが、意思に反して応じた人がいたことは否定できない。
 ハンセン病など感染症が偏見、差別と結びつき、人命と人権を軽視してきた歴史がまた一つ明らかになったのである。非道がまかり通ったのはなぜか。不本意な「献体」を余儀なくされた原因を究明すべきだ。
 同園が14日に明らかにした調査報告書によれば、死亡した入所者約2400人のうち、解剖された389人の身元が特定されたという。身元が特定できない人を含めると、解剖遺体は計479体に上る。入所者とは確認できない乳児や、死産の赤ちゃんも含まれている。遺体を解剖したのは、恵楓園で勤務していた医師や、熊本大医学部の前身の熊本医科大の医師らだ。
 今回の調査は熊本医科大で昭和初期に43人の遺体を解剖し、20体の骨格標本を作製していたことが2013年に判明したことを受けて実施されてきた。園の調査委員会は全容解明のため、園内に残る複数の資料を突き合わせるなどして報告をまとめた。
 報告書には、36年12月の時点で、入所者全員に解剖同意書を提出させるとの内規文書も確認されたとある。あらかじめ同意書が準備され、提出させていたとすれば、入所者の意思は、はなから尊重されていなかったのではないか。解剖された人々の名簿もない。解剖の記録もメモ書き程度がわずかに残っているだけというから、入所者の人権がいかに粗末に扱われていたかを物語っている。
 県内でも入所者の証言で痛ましい記録の数々が残されてきた。ホルマリン漬けにされた胎児の標本、入所者女性への強制不妊、男性への強制断種の記憶が伝えられている。
 強制堕胎の証言も残る。母親から生きて産まれた胎児を医療者が体重計の皿の上に放置して死なせた証言も入所者から伝えられている。
 ノルウェーの医師が発見したハンセン病は43年に米国で治療薬が開発され、治る病気となった。治療法が確立された後も差別と人権侵害は続いた。感染力が弱い感染症だったにもかかわらず、96年に「らい予防法」が廃止されるまで隔離政策も続いた。
 死してなお、自らの身体でさえ自由にならなかった人がいたとすれば、これほどの不幸はない。残された家族たちの悲哀は計り知れない。こうしたすさんだ社会を再来させず、決別するためにも、問題に向き合い、個人の尊厳に深く思いを致したい。