<社説>菅内閣発足 沖縄政策の見直し急務


社会
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 自民党の菅義偉総裁が16日、衆参両院で第99代首相に選出され、菅内閣が発足した。菅首相に真っ先に求めたいのは、安全保障を巡る対沖縄政策の見直しである。

 菅氏は安倍政権の「沖縄政策責任者」として名護市辺野古の新基地建設反対の民意を無視し、建設を強行した。そして安倍政権は県政が新基地を容認するかどうかの態度いかんで沖縄関係予算を増減させる手法などを使って、沖縄社会を分断した。
 新基地建設を巡り、菅氏は移設に向けた作業を「粛々と」進めると語り、県を突き放してきた。生前の翁長雄志知事と菅氏の初会談で、翁長知事はこの「粛々と」という言葉を批判。新基地建設を強行する菅氏に「自治は神話だと発言したキャラウェイ高等弁務官に重なる」と指摘した。
 キャラウェイは米国の沖縄統治時代、自治権拡大を求める住民の声を無視した。当時、米紙ワシントン・ポストはキャラェイをこう評している。
 「(沖縄は)何が住民のためになるかを当の住民よりもよく知っているのだと公言してはばからないアメリカの将軍によって支配されている」。キャラウェイの統治は沖縄社会に分断をもたらした。
 安倍政権も、辺野古新基地建設に反対する沖縄県を通さず市町村に国から直接予算を出す「特定事業推進費」を新設した。カネと引き換えに国家の意向に従えという手法であり沖縄社会の分断策である。
 菅氏は「(辺野古移設は)唯一の解決策」と繰り返した。政治家は「唯一」という言葉を軽々しく使ってはならない。その言葉を使った瞬間、思考停止に陥る。民意に基づき可能性を追求するのが政治であるはずだ。
 菅新政権は普天間基地を直ちに閉鎖し、県外・国外移転の方策を早急に議論すべきだ。
 海底に軟弱地盤があり、工事の完了が見通せず、総工費は9300臆円に膨らむ。アベノミクスといわれる経済政策は目標の未達成が目立つ。国と地方の借金残高は1千兆円を超え、国内総生産(GDP)比率は200%を大きく上回っている。さらにコロナ禍で経済がひっ迫する中で、なぜ辺野古にこだわるのか。
 菅氏は中世の政治思想家のマキャベリを好むという。今回、派閥「談合」によって首相に押し上げられた菅氏は、マキャベリの次の言葉を肝に銘じてほしい。「民衆に逆らい、有力者たちの好意によって君主になった一個人は、他の何にも優先して、民衆の心をつかむように努めなければならない」(「君主論」)
 安倍政権は政府の人事権を官邸に集中させ、官邸主導の政治を行った。それが官僚の忖度(そんたく)を生み国会軽視につながった。安全保障は対米追従で、基地を沖縄に押し付け、不平等な地位協定を抜本改定できなかった。菅首相は就任会見で安倍政治を「継承する」と明言したが、それでは国民の信任を得られないだろう。