<社説>新味ない「継承」内閣 沖縄振興を変質させるな


社会
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 菅内閣が始動した。閣僚20人のうち11人が安倍内閣からの再任か横滑りだ。7年8カ月ぶりの首相交代だというのに、清新さは一切感じられない。女性閣僚にいたっては2人しかいない。指導的地位を担う女性の割合を高めるという政府の役割を早くも放棄したとしか言いようがない。

 菅義偉首相は「国民のために働く内閣」と強調したが、自民党のお家芸ともいえる長老政治や派閥の論理がまたぞろ幅を利かせている。国民よりも身内の方を向いた、極めて内向きの内閣だ。
 沖縄担当相に就いた河野太郎氏も、防衛相からの横滑り組だ。だが、他の留任閣僚とは異なる重大な問題をはらんでいる。防衛相経験者がスライドして沖縄振興施策を担うことは、異例の配置だからだ。
 沖縄相は、沖縄戦による県土の破壊や27年に及ぶ米軍支配によって立ち遅れた経済や暮らしの向上を実現し、沖縄の自治の確立を支える役割を担う。内閣の中にあって沖縄県の最大の理解者として振る舞い、国策と沖縄県の利害が対立する際は中立的な立場を貫くことが求められる。
 一方で河野氏は防衛相として、国防の観点から沖縄を戦略的に位置付ける政府の安保政策に邁進(まいしん)してきた。玉城デニー知事の反対にもかかわらず辺野古新基地建設の設計変更申請を強行し、離島住民が不安を抱く自衛隊の南西諸島シフトを着々と進めた。
 内閣が替わったからといって、国策押し付けを一転させて沖縄の民意に寄り添うことができるのだろうか。むしろ沖縄に国防の役割を強いる手段として、より明確に沖縄振興政策を変質させていくことへの警戒感が拭えない。
 河野氏は沖縄相の就任会見で基地問題と沖縄振興のリンク論に対する認識を問われると、「基地問題もひっくるめた沖縄振興を考えていかなければならない」と述べてリンクを否定しなかった。
 基地と振興のリンクは任命者の菅首相自身が再三言及してきた。防衛相から沖縄相への横滑り人事が、リンクを強める意図的なものだとしたら看過できるものではない。
 河野氏は外相時代に、元徴用工訴訟問題で駐日韓国大使を呼び出して「極めて無礼だ」と発言し、日韓関係を悪化させて国益を損ねた。意見の異なる相手との対話を拒む居丈高な態度を改めなければ、今度は沖縄政策をこじらせることになるだろう。
 河野氏の後任の防衛相には岸信夫氏が初入閣した。岸氏は安倍晋三前首相の実弟だ。岸氏は就任会見で辺野古移設を「唯一の解決策」と語り、安倍政権の方針を堅持する立場を示している。
 菅内閣の存在意義が安倍政権の継承である以上、玉城県政の対政府交渉は厳しさが続く。県は政府の「アメとムチ」に揺さぶられず、沖縄振興を変質させない毅然(きぜん)とした姿勢を示してもらいたい。