<社説>ヘリ炎上 捜査終結 主権国家の責任果たせ


社会
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 果たして日本は主権国家と言えるだろうか。

 東村高江に2017年10月、米海兵隊普天間飛行場所属の大型輸送ヘリコプターCH53Eが不時着し炎上した事故で、沖縄県警は航空危険行為処罰法違反の疑いで容疑者不詳のまま書類送検した。
 3年の公訴時効成立を前に、全容解明に至らず捜査は事実上終結したことになる。 甚だ遺憾であり、納得がいかない。米軍の治外法権を認めた日米地位協定を改定する必要性が改めて浮かび上がる。協定に関して秘密裏に交わされた日米地位協定合意議事録の撤廃も急がれる。
 防衛省が18年に公表した米側の事故調査報告によると、ヘリは沖縄本島北部で空中給油訓練中にエンジンから出火したとみられるが、根本的な原因は特定されていないとしている。再発防止策の詳細も明らかにされていない。
 県警は「米軍などから必要な協力は得られた」としているが、操縦士や整備士の事情聴取はできず、米側からその詳細の説明もないという。
 事故発生直後から米軍は大破した機体周辺を管理し、土地所有者も規制線の外に置かれた。県警が現場に立ち入ることができたのは事故から6日後。米軍が機体の残骸や周辺土壌を持ち去った。地位協定などで米軍の公務中の事件事故の捜査は米軍の同意が必要と定めており、捜査の壁となっていることは明白だ。
 米軍機事故では過去にも原因不明のまま捜査が終結し、飛行が再開されてきた。
 04年にCH53Dが沖縄国際大に墜落した事故も容疑者不詳のまま捜査が終わった。県警は乗員の事情聴取や証拠品の提出を米側に求めたが実現しなかった。16年に輸送機オスプレイが名護市安部の海岸に墜落した事故も同様に、米軍は要請に応じなかった。
 本土と沖縄での事故対応の違いを指摘する声もある。1968年の福岡市での九州大への米軍戦闘機墜落や77年の横浜市での米軍偵察機墜落、88年の愛媛県での米軍ヘリ墜落では米軍が日本側の現場検証を認めている。差別的な二重基準は許されない。
 いずれにしろ日本政府は、自国の捜査権が及ばないことを認める屈辱的な地位協定の改定に踏みだすべきだ。協定の発効に合わせてひそかに作成された合意議事録の撤廃も議題にすべきである。
 日米地位協定は基地外での米軍事故などの際、米軍は日本側と協力する旨を定めている。だが日米関係に詳しい山本章子琉球大准教授らが度々指摘しているように、実際には合意議事録の存在により、日本側は米軍の財産を捜索し差し押さえ、検証する権利がないと取り決められている。
 菅義偉首相は先日、トランプ米大統領との電話会談で日米同盟を強化する方針で一致したが、戦後75年たっても協議すらできない不平等な取り決めの是正を率直に話し合えてこそ真の「同盟」である。