<社説>日中首脳対話 「互恵」と「共存」実現を


社会
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 菅義偉首相は就任後初めて中国の習近平国家主席と電話会談した。日中関係の発展を見据え、首脳間を含むハイレベルで、2国間や国際的な課題に対して緊密に連携することで一致した。

 日本と中国の平和友好条約が発効して、今月で42年になる。米中対立が激化し「自国第一主義」が広がる中で、どちらにくみすることなく、条約で誓った「善隣友好の精神」を堅持できるのか。菅首相の外交手腕が試されている。
 中国は2010年に国内総生産(GDP)総額で日本を抜き米国に次ぐ世界第2位に成長した。日本にとって最大の貿易相手となり経済の相互依存は強まるが、安全保障や歴史認識を巡って摩擦が続く。
 10年9月、石垣市の尖閣諸島沖で中国の漁船が第11管区海上保安本部の巡視船に衝突した。この事態にナショナリズムが高まり日中関係は一気に緊迫した。
 特に12年9月に日本政府が尖閣諸島を国有化した際、中国が猛反発し、政治的には最悪の関係まで冷え込んだ。中国海警局の船による領海侵入は常態化し、緊張は今も続く。そもそも尖閣は琉球人の生活圏である。この海域での衝突は絶対に避けなければならない。
 尖閣だけではない。中国は南シナ海に向け今年8月、中距離弾道ミサイル4発を発射した。米中間の貿易戦争に端を発する挑発だとすれば、極めて危険な行為だ。南シナ海の周辺国・地域の人々が巻き込まれかねない。もし対立が先鋭化すれば、日本国内で南シナ海に最も近い沖縄が米軍の前線基地として使われる可能性は否定できない。
 20年版防衛白書は、南西諸島の防衛を強化し、先島への自衛隊配備を進めていく方針を示している。沖縄の基地機能の強化は、戦争などの有事の際、「敵国」から標的にされることを意味する。自民党国防議員連盟の会合で、南西諸島の防衛力強化を理由に宮古島市の下地島空港を自衛隊が利用すべきだとの意見が相次いだ。
 菅外交は、外交の軸足を中国側に少しばかり移し、日中関係を重視するという見方がある。背後には、米国との足並みをそろえるあまり、経済面で深くつながる中国との関係を揺るがすのは得策でないとの計算があるようだ。
 対中関係で日本がなすべきことは、徹底した外交努力以外にない。米中の仲介外交に、今こそ心血を注ぐべきだ。
 日中関係の節目で重要な政治文書が発表されてきた。1998年の共同宣言は、中国侵略に対して日本が「深い反省」を表明。2008年には戦略的互恵関係の推進を掲げた共同声明を発表している。
 そして42年前の平和友好条約第2条は、双方が「覇権を求めない」と定めている。条約の原点に立ち返り「平等」と「互恵」、そして「平和共存」の関係を築くよう求めたい。