<社説>学術会議に政治介入 学問の自由否定する暴挙


社会
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 学者の立場から政策提言する国の特別機関「日本学術会議」が推薦した新会員候補6人の任命を、菅義偉首相が拒否した。

 6人は安全保障関連法や辺野古新基地建設など安倍政権の政策に異論を唱えた経緯がある。政権を批判した学者を、理由も明らかにせず排除するやり方は憲法23条が保障する学問の自由と、学術会議の独立性を否定する暴挙である。
 立憲主義を否定する前例のない政治介入を、直ちに撤回するよう強く求める。
 日本学術会議は1949年、日本人科学者の代表機関として設立された。定員210人。任期は6年で3年ごとに半数が交代する。日本学術会議法は、学術会議の「推薦」を踏まえ内閣総理大臣が「任命する」(第7条2項)と規定している。首相は、その分野の専門家でないので学問的業績を評価できない。このため推薦が尊重されてきた。
 政府は「形だけの推薦制であって、推薦していただいた者は拒否しない。形だけの任命をしていく」(83年、参院文教委)と答弁していた。政府による干渉や中傷、運営の口出しはしないと明言した。
 ところが今回、現行の制度下で初めて推薦者の任命を拒否した。しかし、加藤勝信官房長官は、任命拒否の理由は明らかにしなかった。おそらくできないのだろう。
 加藤氏は「会員の人事を通じて一定の監督権を行使するのは法律上可能」として学問の自由の侵害には当たらないとの認識を示した。まったくの詭弁である。
 なぜなら日本学術会議法は、首相の「所轄」であるが、組織の「独立」を規定しているからだ(第3条)。首相に「監督権」があるとは書いていない。独立しているからこそ学術行政について「政府に勧告」することができる(第5条)。加藤氏が言うように「人事を通じて」首相に監督されるのであれば、単なる政府の下請け機関でしかなくなり、存在意義を否定することになる。
 安倍政権下の官房長官として菅氏が人事権を行使して官僚を支配したように、学者も監督下に置こうとするなら、学術会議法の趣旨からして違法の可能性がある。
 そもそも学術会議は、アジア・太平洋戦争時に科学者が戦争に協力したり動員されたりした反省から、政府から独立した立場で数多くの勧告や政策提言を行ってきた。戦争を目的とする研究を拒否する声明を発表するなど、一貫して軍事と一線を画してきた。
 任命拒否された6人は「共謀罪」法案や安全保障関連法案、特定秘密保護法案に反対した。このうち岡田正則早大教授(行政法学)は辺野古新基地建設を巡る政府対応に抗議する声明を発表している。
 社会科学は、時の権力について耳の痛い知見を示すこともあろう。政権の意に沿わないから排除するというなら、学問の自由の侵害であり、憲法の否定である。