<社説>東証売買全面停止 信頼回復へ防止策を示せ


社会
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 東京証券取引所(東証)がシステム障害により、1日の売買を終日全面停止した。投資家の信頼を裏切る重大な失態だ。東証を運営する日本取引所グループ(JPX)は、迅速に徹底して原因を究明すべきだ。

 一度揺らいだ信頼を取り戻すのは難しい。なぜこのような事態に陥ったのか、情報の開示と実効性ある防止策を提示することが投資家の不安を解消する唯一の道だ。
 東証のシステム障害は、主なものだけでも1997年以降、6度ある。中でも全面的な停止は2006年以来だ。06年は特定の銘柄に対する売り注文が殺到したことを契機に、注文への処理能力が追い付かなかった。通常の終了時間より20分早く取引を全面的に停止した。
 今回は情報を記録する共有ディスク装置の故障に加え、予備装置への切り替えもできかった。東証のシステムを使う札幌、名古屋、大阪の3取引所も影響が及んだ。不測の事態への備えが足りず、一極集中するシステムの脆弱(ぜいじゃく)さがあらわになったといえる。
 システムにさらなる不備や不安要素が隠れていないか。明確に原因が分からない現状では、投資家に不安が広がることを否定できない。
 政府は国際金融センター構想を掲げ、アジアの投資を呼び込もうとしている。政治的に不安定な香港に代わる金融の受け皿としての可能性を探る議論も高まっている。
 JPXの2019年株式売買状況を見ると、東証一部の大口投資家による売買高で海外投資家は68%を占める。19年末の上場企業時価総額は約620兆円で米国の2取引所に次ぐ世界3位の規模だ。
 確かに存在感はあるものの、国際的な地位を得るために必要な信頼は地に落ちた。今回の失態に対し、海外メディアからは「最悪の停止」(英紙フィナンシャル・タイムズ電子版)など厳しい目が注がれている。今の状況では香港に代わるなど論外だ。不安が解消されなければ、海外投資家はシンガポールなど他国の市場に流れかねない。
 そもそも証券市場とは何か。バブル景気や実態経済と懸け離れた感がある現在の株価など、投資に直接関わらない市民からすれば、マネーゲームと映ることは否めない。
 ただ本来の市場の役割を考えれば、余剰資金を運用する投資家と資金調達を望む企業を仲介する場だ。
 独創的な企画を持ち成長力がありながら資金力のない企業を支える役割もある。業績が好調なら株が買われて企業価値が上がり、その逆もありうる。企業に対する社会の評価を定める側面もあるのだ。
 経済活動を支え、市場が公正な評価を実現するには多くの投資家の参加と適切な情報開示が不可欠だ。社会基盤としての市場の重要性を再確認し、原因究明や再発防止へ積極的に情報発信するのがJPXに課された重大な責務だ。