<社説>デジタル庁の創設 国民本位の議論が先決だ


社会
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 菅政権が看板政策に掲げる「デジタル庁」の創設に向けた動きが本格化している。政府は来年度に発足させる考えだが、懸念されるのは個人情報の扱いや、強力なデジタル技術を把握することで統治の手段と化さないかだろう。

 膨大な情報を効率的に分析できるデジタル技術はさまざまな応用の可能性がある。人々の消費活動や行動を全体的に把握するだけでなく、個人の趣味嗜好(しこう)にまで至る。ビッグデータの解析により、中国政府が治安目的で国民の動静やネット上の投稿などを広く監視の対象としていることも指摘されている。
 利便性の向上や恩恵を語るばかりでは急加速するデジタル化の動きは理解が追い付かない。デジタル化の進展で得られる利益と失われる利益は何か。課題を検証し、不安を払拭した上で、国民本位のデジタル化を目指すべきだ。
 デジタル庁は、各省庁や自治体がばらばらにシステム構築していたデジタル情報の一元化を担う。情報をまとめることで行政の効率化を図るのが最大の目的だ。年内に具体策をまとめ、年明けの国会に関連法案を提出する。
 確かにコロナ禍で感染者情報のやりとりをファクスでしていたり、印鑑を押すためだけにテレワークができなかったりとデジタル技術の普及が途上にあることが露呈した。
 国民1人当たりの特別定額給付金についても、政府は迅速な支給を促すため、マイナンバーカードの所有者を対象にオンラインでの申請を打ち出した。しかしカードの普及率は2割にも満たない。自治体も扱い慣れない仕組みにもたつき、現場が大混乱したのは記憶に新しい。
 菅義偉首相は、このマイナンバー制度の多機能化に力を入れる考えだ。来年3月からは健康保険証との一体化を進め、運転免許証との連結も進めるという。こうした情報が横断的にひも付けられるとなれば、行政が保持する情報は膨大になろう。
 しかしマイナンバーカードの取得率がなぜ2割に満たないか。多くの国民が個人情報を行政に把握されることに抵抗を感じているからにほかならない。
 しかも今回はかなりの情報が管理の対象となる。銀行口座ともひも付けが進めば、所得や商品などの購入履歴など詳細な情報まで網羅的に把握されることになろう。
 そんな膨大に蓄積される情報が漏えいした時のダメージを国民は恐れているのだ。NTTドコモやゆうちょ銀行では現在、電子決済で大規模な不正出金問題が起きている。システム自体がぜい弱で、課題を抱えている。
 マイナンバーに国民監視のような機能が万が一にも備わってもいけない。そのためにも自己情報コントロール権や救済機関の設置を俎上(そじょう)に載せるべきだ。官民による規制・監督をする第三者的な機関の設置で法整備も不可欠だ。