<社説>学術会議介入問題 独裁への道を危惧する


社会
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 日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を政府が拒否した問題を巡り、2016年の安倍政権時代から官邸が継続的に関与していたことが明らかになった。

 国家の意向に沿わない憲法学者を排除した戦前の天皇機関説事件をほうふつとさせる。民主主義を装いながら、秘密裏にルールを曲げて異論を排除するやり方は、学問への冒瀆(ぼうとく)に他ならない。かつての独裁への道を進んでいるのではないかと危惧する。
 菅義偉首相は「学問の自由」への侵害との指摘に「全く関係ない」と強調した。しかし、なぜ「関係ない」のか、なぜ任命を拒否したのかなど理由を明らかにしていない。「総合的、俯瞰(ふかん)的」な判断という意味も不明だ。国民に納得できる説明が必要である。
 日本学術会議法は、首相の「所轄」であるが、組織の「独立」を規定している。独立しているからこそ「政府に勧告」することができる。「学会から推薦された者は拒否しない」と国会答弁している。
 しかし、首相官邸は16年の学術会議メンバーの補充人事で学術会議が示した候補者案の一部に難色を示し、欠員補充を見送ったことが明らかになっている。
 学術会議は17年3月に研究機関による防衛省の軍事応用可能な研究への助成制度を「政府介入が著しく、問題が多い」と批判した。すると官邸は17年に改選会員105人を決める際定員より多い名簿を示すよう求めた。学術会議の「独立」の侵害といえよう。
 翌18年11月に「首相に日本学術会議の推薦通り会員を任命すべき義務があるとまでは言えない」との内閣府見解をまとめていた。政権の都合でかつての国会答弁と食い違う法解釈をしている。
 人事で官僚を掌握し法律を捻じ曲げるやり方は、安倍政権を踏襲している。今年1月、黒川弘務東京高検検事長の定年延長を巡り従来の法解釈を閣議決定で変更した。13年には「法の番人」と呼ばれる内閣法制局長を内部昇格の慣例を破り、外交官の小松一郎氏を起用。歴代政権が禁じてきた集団的自衛権の行使容認を含め、閣議で憲法解釈を変更した。菅氏は「方針に従ってもらえない場合は異動してもらう」と明言している。
 1935年の天皇機関説事件で、美濃部達吉東京帝国大学名誉教授が唱えた通説を政府が排除した。天皇は法人としての国家の最高機関であるという学説が、「現人神(あらひとがみ)」とされた天皇の統帥権下で行動する軍部の反発を招いた。美濃部氏は貴族院議員を辞職し主著は発禁処分になった。天皇機関説をとっていた憲法学者は転向に追い込まれた。
 菅政権で起きている学術会議への介入は、理由を示さず実行されている点で、より巧妙とも言える。民主主義を鍛えるのは多様な言論活動である。異論を封じ込めることは真理探究の道を閉ざしてしまうことを肝に銘じるべきだ。