<社説>ヤンバルクイナ回復 生物多様性保全の好例に


社会
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 国指定の天然記念物ヤンバルクイナが新種記載されてから40年目を迎えた。一時は推定個体数が700羽程度まで減り絶滅が危惧されたが、徹底した外来種対策で個体数は1500羽程度に回復した。

 今年は国連が定めた「生物多様性の10年」の最終年に当たる。国連報告書によると、目標20項目のうち完全に達成できたものはなかった。
 外来種対策を柱とした生息環境の改善、ヤンバルクイナを守る飼育繁殖の両輪による沖縄の保護活動は、生物多様性保全の好例である。広くノウハウを共有したい。
 ヤンバルクイナにとって大きな脅威は、マングースやネコによる捕食だ。マングースが高密度に分布する中南部からやんばる地域への北上を防ぐため、県と環境省は大宜味村塩屋から東村福地ダムにかけてマングース北上防止柵を設置した。この柵の北側でわなや探査犬によるマングースの捕獲を続けてきた。
 野生生物を捕食するネコは、国頭村安田区が2002年に飼養規則を作った。05年には国頭、大宜味、東の3村が条例を制定し、飼い主が分かるマイクロチップの埋め込みや避妊・去勢手術を定めた。
 ヤンバルクイナ保護活動のもう一つの柱が飼育繁殖だ。飼育下での知見がほとんどなく、保護した卵のふ化など試行錯誤を繰り返した。野性に戻すために野外で生き抜く術を教えた。人工餌から、カタツムリやミミズなど自然の餌に慣れさせ、フェンスで囲われた森の中の広いシェルターで野に暮らす訓練も導入した。
 地域の理解やボランティアなどの協力も欠かせない。こうした地道な取り組みが個体数増につながったのだろう。
 一方、10年前に名古屋市で開かれた生物多様性条約の締約国会議で、具体的ルールが採択された。開催地にちなんで「愛知目標」と呼ばれる。今年がその期限だ。国連によると、20項目の目標のうち14項目は達成できず、外来種対策や保護区の設定など6項目が一部達成にとどまった。
 サンゴ礁は温暖化と海洋酸性化の影響を受け「約6割は破壊的な漁業などの脅威に直面している」という。世界で過去10年に森林が年470万ヘクタールのペースで失われた。野生動物の生息数は1970年以降、3分の1に減少した。約12万の生物種の27%に絶滅の恐れがある。
 今年9月30日に開催された「生物多様性サミット」で国連のグテレス事務総長は、新型コロナウイルスなど動物由来の感染症が広がるのは、人間が自然を損ない生態系との間のバランスを崩したからだと指摘している。
 「春が来ても、鳥たちは姿を消し、鳴き声も聞こえない。春だというのに自然は沈黙している」(レイチェル・カーソン)。そんな事態を招かないため、時間はかかるだろうが個人や企業、地域社会が行動を起こし、それぞれの役割を果たさなければならない。