<社説>ノーベル平和賞にWFP 飢餓と闘う行動に敬意


社会
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 2020年のノーベル平和賞は飢えのない世界を目指し食料支援を続ける国連機関、世界食糧計画(WFP)に決まった。飢餓と闘い、飢えを戦争や紛争の武器として使うのを防止する努力をしたことが評価された。

 飢餓にあえぐ国々ばかりでなく、私たちの近くにも困窮のために食事に事欠く子どもや人々がいる。コロナ禍で、給食が日に唯一の食事だったという子どもの存在もあぶり出された。困っている人々に食べ物を届けるという「シンプルな使命」を60年も果たしてきたWFPの受賞を歓迎したい。
 WFPは1961年、戦争や自然災害などの緊急時に必要な食料を配給することで人々の命を救うことを目的に国連に創設された。1万7千人超の職員の9割は支援先の発展途上国で働き、2018年には支援のため食料360万トンを購入した。活動は全て任意の資金拠出や募金で賄われている。
 世界人口の約11人に1人、7億人近くは満足な食事を取れず健康的な生活を送れていない。危機的な飢餓に直面しているのは55カ国・地域の約1億3500万人に上る。
 飢餓は各国の経済発展に伴って過去20年ほどの間にかなり減った。しかし、悲しいことに再び増える傾向にある。主な要因は紛争だ。内戦や紛争が長期化している国はシリアやイエメン、ソマリアなどいくつもある。貧困を背景に紛争が生まれ、紛争が貧困を拡大させる負のスパイラルが起きている。
 さらに異常気象による干ばつに加え、新型コロナウイルス感染症が追い打ちを掛けている。地球温暖化などによる干ばつや砂漠化は先進国に住む私たちにも責任はないだろうか。
 WFPは内戦が続く国々やイスラム教徒少数民族ロヒンギャが迫害されているミャンマーなどで緊急支援を展開している。国際協調を拒む北朝鮮も支援する。世界で自前の飛行機約100機、30隻の船、5600台のトラックを使って物資を運ぶ。
 WFPへの平和賞の授与決定は、その活動が自国政府からも守られない多くの人々の命をつないできた現実に目を向けさせた。しかしながらもう一つ、私たちが直視しなければならない現実がある。
 ノーベル賞委員会は受賞理由の冒頭に「国際的な連携と多国間協力の必要性が今ほど明白な時はない」と述べた。背景にはトランプ米大統領に代表される自国第一主義の台頭がある。
 世界では自国優先、保護主義を掲げる政治家が支持を広げ、英国の欧州連合(EU)離脱などで分裂や亀裂が目立つようになった。国家間の交流が制限されるコロナ禍は各国の孤立主義を推し進める危険がある。WFPが軸に据える多国間協調を尊重する世界をいかに構築していくか。私たちにも問われている。