<社説>コロナ民間臨調 検証結果を政策に生かせ


社会
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 「泥縄だったけど、結果オーライだった」

 安倍政権下での新型コロナウイルス対策は、この一言に象徴される。8日までにまとめた新型コロナ対応・民間臨時調査会(コロナ民間臨調)の報告書に記された証言だ。
 誰もが想定しなかった感染症拡大への対応が難しかったのはやむを得ない。だがそこから何を学ぶのか。政府は民間の指摘を真剣に受け止め、政策に生かさねばならない。
 コロナ民間臨調はシンクタンクが設立した。財界、研究者ら4人の委員の下に専門家19人の作業部会を設け、安倍晋三首相(肩書はいずれも当時)や菅義偉官房長官、西村康稔コロナ担当相をはじめ、政府関係者ら83人に延べ101回のヒアリングとインタビューをした。検証期間は国内初の感染者が確認された1月から7月までの半年間だ。
 報告書から見えてくるのは、準備不足と場当たり的対応が積み重なったことだ。アベノマスクに代表されるように政策的、疫学的な検証もなく首相と周辺スタッフが暴走した状況も浮かび上がる。
 安倍氏が決断を下したもののうち、特に世論の反発を招いたのは全国一律の一斉休校とアベノマスクだろう。一斉休校の内情について報告書は「2月24日の専門家による『瀬戸際』発言がターニングポイントとなり、総理室は急きょ方針を転換」したと明かす。萩生田光一文科相(当時)から不満や疑問があったが、安倍氏が押し切った。
 マスク配布は「厚労省や経産省との十分な事前調整なしに首相周辺主導で決定」した。報告書で官邸スタッフは「総理室の一部が突っ走った。あれは失敗」と認めている。
 こうした判断ミスの積み重ねは欧州からの旅行客流入制限遅れにもつながり、国内での感染拡大の一因になった。その背景を「一斉休校要請に対する世論の反発と批判の大きさに消耗し(中略)指導力を発揮できなかった」と報告書は結論付けている。
 法的な強制力を伴わない行動制限や集団感染対策、補償なき自粛・休業要請による拡大防止と経済の両立を目指すのが「日本モデル」と報告書は定義している。次に来るであろう感染拡大の波に対応するには、従来の「日本モデル」に不足する部分を補う政策立案と政権の指導力が必要だ。
 菅氏は安倍政権の継承を掲げたが、失敗と結論付けられたコロナ対策まで継ぐことはない。臨調の提言のうち専門家組織の総括・検証や危機対応法制見直しなど、できることを速やかに実行すべきだ。
 そもそもこうした検証は政府が主導して実施すべきものである。そのために不可欠なのが公文書による記録だ。安倍政権下では森友問題に見られるように公文書を軽視する姿勢が目立った。直面する課題への対応、将来世代への説明責任を含め、現政権には記録を残す重要性を肝に銘じてもらいたい。