<社説>大城立裕さん死去 文化の力で政治に対峙


社会
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 沖縄初の芥川賞作家で長年、沖縄文学をけん引し、沖縄とは何かを問い続けた大城立裕氏が27日、死去した。

 近現代の日本と沖縄の関係を「同化と異化」という視点で見つめながら、普遍的な世界を描いた。沖縄をねじ伏せようとする政治の力に対し、文化芸術の力を示して県民を勇気づけた。
 95年の生涯は、琉球王国併合に伴う「ヤマト世」から、戦後の「アメリカ世」、そして日本復帰による「ヤマト世」へと時代に翻弄(ほんろう)され、アイデンティティーが揺れた沖縄の歴史と重なる。日本への同化・皇民化が進む時代に幼少期を送り、中国で敗戦を迎えた。そして戦後、米国統治を経験する。
 沖縄の歴史と文化を柱に創作活動は多岐にわたる。琉球王国廃滅を題材にした「小説琉球処分」、「日の果てから」を含む戦争と文学三部作、米占領下の沖縄を描いた「カクテル・パーティー」や「逆光のなかで」、習俗を扱った「亀甲墓」などである。
 「さらば福州琉球館」や「世替りや世替りや」、新作組踊「真珠道」など数多くの戯曲や組踊などの作品も残した。
 芥川賞受賞作「カクテル・パーティー」は戦前・戦中の日本や沖縄の加害性に着目した作品である。戯曲版(英語)は、2011年ハワイで初上演された。
 真珠湾攻撃に触れつつ、アジア・太平洋戦争で日米両国の加害、被害の側面と、それを超えて和解していく道を描いている。そのメッセージ性は高く評価された。
 同時に沖縄文学が、ハワイやグアムなど、基地と観光の島である太平洋の島々の人々が紡ぎだす「ことば」と通底していることを気づかせた。英訳されたことで、沖縄文学を世界に伝えていくことが可能になった。
 「沖縄問題は文化問題」と語り、アイデンティティーを大事にした。11年に発表した「普天間よ」は移設問題で揺れる米軍普天間飛行場を正面から取り上げている。
 「なぜ普天間がわれわれにとって問題かといえば、やはりアイデンティティーの問題だろう。基地によって奪われた自分を取り返そうということだ」と語っている。
 名護市辺野古の新基地建設に伴う埋め立ての是非を問う県民投票について「政府に対し大げんかを売るまで成長した」との見方を示した。
 かつて日本へ「同化」しようと、もがいた県民の意識が「異化」に転じたとみる。日本に対する劣等感から来る同化志向に対し、独自のアイデンティティーを求めるのが「異化」である。日本政府による構造的差別を前に、新基地建設への抵抗運動は「異化の爆発」と表現した。
 今年2月に名桜大が主催したシンポジウムで「私の遺言」として、しまくとぅば復活へ標準語としての丁寧語の創造を提案した。残された大きな宿題を共に成し遂げたい。