<社説>大阪都構想 民意は政令市存続求めた


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 政令指定都市の大阪市を廃止し、4特別区に再編する「大阪都構想」の是非を問う住民投票で、反対が多数を占め否決となった。否決は2015年の住民投票に続き2度目。大阪市の民意は再び政令市の存続を求めた。

 「大阪都構想」は、府政と市政の両方を担う「大阪維新の会」が10年の結党以来掲げてきた看板政策である。それが2度の住民投票でノーの審判を受けた。維新はこの構想以外の手法で行政の効率化を目指すべきだ。
 大阪都構想の狙いは二重行政の解消にあった。市を廃止して東京23区と同様の特別区を設置し、府とともに行政機能を再編する改革である。成長戦略やインフラ整備は府に一元化し、特別区は教育、福祉などの住民サービスに徹するというのが維新の説明だ。
 しかし、大阪市廃止による市民の不安は大きかった。特別区が担う教育、福祉はいずれも市民生活に直結する分野である。特別区で住民サービスの質が保たれるのか、市民の目には不透明に映った。4特別区が財政難に陥る可能性を指摘する声もあった。維新は構想を掲げて10年になるが、市民の不安や懸念を払拭(ふっしょく)することができなかった。
 今回の住民投票でも再編後の財政見通しや住民サービスの質的水準、府が担う成長戦略の効果が争点となった。コロナ禍の中での住民投票となったこともあり、5年前の住民投票に比べても論戦は低調で、投票率も前回を4・48ポイント下回る62・35%にとどまった。
 そもそも維新が府政と市政を独占する中で二重行政の無駄が一定程度解消されたとの評価があった。あえて政令市廃止に踏み切る必要があるのか。大改革よりも現状の体制の中で着実に行政改革を進めることを市民は選択したのである。その意味で維新の大阪都構想は市民感覚から浮き上がっていた。
 大阪都構想の実現を目指し、大阪府と大阪市は13年、共同部署の「大都市局」を設置している。都構想の関連経費として投入された公金は100億円を超える。住民投票で2度も構想が否決された今、これだけの巨額を投入する必要があったのか維新府政と市政は説明する必要がある。
 それでも、大阪都構想を巡る論議が無駄だったとは言えない。大阪以外でも政令指定都市と道府県の二重行政は指摘されており、課題は残されているからだ。構想の中で東京一極集中への批判が議論された意義も見逃してはならない。豊かな地方を約束する日本の将来像を描く中で東京一極集中は是正されなければならない。
 大阪都賛成、反対で二分した市民の間には疲れもあったはずだ。しかし、この経験を無駄にしてはならない。権限、予算をどのように使い、住みよい街づくりを進めるかという分権・自治の観点からも大阪都構想を巡る論議は生かしていきたい。