<社説>学術会議予算委論戦 杉田氏の招致しかない


社会
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 その場しのぎを重ね、支離滅裂が際立ってきた。日本学術会議の会員任命拒否を巡る菅義偉首相の説明だ。

 2、4日の衆院予算委員会で任命拒否の理由や根拠を問われた菅首相は、官僚の準備したペーパーの棒読みが目立ち、論点ずらしに終始した。首相自らの言葉で国民への十分な説明ができないことが明確になった以上、任命除外に関わる杉田和博官房副長官を国会に招致して真相を明らかにするしかない。
 日本学術会議法は会員について、学術会議の「推薦」を踏まえ内閣総理大臣が「任命」すると規定している。1983年に当時の中曽根康弘首相は「政府が行うのは形式的任命にすぎない。学問の自由独立はあくまで保障される」と国会答弁しており、学術会議が政府から独立した存在であることを認めている。
 ところが、菅首相は「推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲していいのかを考えた」と、任命拒否を正当化した。拒否した理由については「総合的、俯瞰(ふかん)的な活動を求める観点」と述べるだけで、詳細な説明を避けた。
 政府は今になって、首相が任命拒否できる根拠として、18年に内閣府が内閣法制局と協議した内部文書があることを公表した。公務員の地位などを定めた憲法15条に基づき、学術会議会員も推薦通りに任命しなくてもよいというのがその理屈だ。
 しかし、国民や国会への説明もなく秘密裏に法解釈を変更していたとすれば、法治国家を否定する重大な事態だ。加藤勝信官房長官は「解釈に変更を加えたものではない」と釈明するが、83年の答弁と齟齬(そご)はないというのはどう捉えてみても強弁だ。
 学術会議法違反を追及された菅首相は「七つの旧帝国大学に所属する会員が45%を占めている」と今度は会員構成の偏りを持ち出し、学術会議全体の在り方に議論のすり替えを図った。だが、任命拒否した6人のうち3人は私大の所属であり、首相が言う会員構成の「多様性」という説明と矛盾を来すこととなった。
 衆院予算委は首相就任後初の一問一答形式の質疑となり、国民の疑念に対する丁寧な説明があるのかが注目された。しかし、首相は「個々の任命理由は答えを控える」の一点張りで、論戦に正面から向き合わない姿勢は変わらなかった。官僚の助け船や加藤官房長官が答弁に立つ場面も目立った。首相の答弁能力の低さが明らかになった。
 菅首相は推薦名簿を見ていないとし、任命拒否した6人のうち1人を除いては研究や業績を「知らなかった」と答えた。それでは誰がどのような理由で任命を拒否したのか、疑問はより深まった。
 日本学術会議の独立性は憲法23条が保障する「学問の自由」と結び付いている。会員人事を通じて学問の自由に介入することは許されない。徹底した真相の解明が必要だ。