<社説>女川原発再稼働同意 住民の安全確保が先決だ


社会
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 宮城県の村井嘉浩知事は11日、東北電力女川原発2号機の再稼働に同意することを表明した。重大事故を起こした東京電力福島第1原発と同じ沸騰水型軽水炉で初の地元同意となる。

 女川原発は東日本大震災の震源に最も近い原発だ。原発事故時に周辺住民を避難させるための計画は課題が多く、周辺住民の安全に責任を負えるのかという点で、再稼働同意の判断は性急に映る。住民避難計画の策定が必要な30キロ圏の自治体に同意の範囲を広げ、実効性のある避難計画作りを最優先すべきだ。
 東日本大震災で女川原発は運転中の1、3号機と、原子炉を起動中の2号機が自動停止した。敷地高さを海抜14・8メートルに設計していたが約13メートルの津波が押し寄せ、2号機の原子炉建屋地下が浸水した。
 政府は福島原発の事故を受け、原発から30キロ圏の緊急防護措置区域(UPZ)にある自治体に住民避難計画の策定を義務付けた。原発事故の影響が想定されるUPZの自治体は、原発再稼働に当たって同意が必要な当事者と考えるのが当然だろう。女川原発から30キロ圏に一部が含まれる宮城県美里町の相沢清一町長は「避難道路の整備など課題が山積している」と、再稼働に反対姿勢を見せている。
 しかし、東北電が今回の再稼働で同意の対象としているのは宮城県のほか女川町、石巻市という、原発が直接立地する自治体に限っている。
 同様に震災で被災した茨城県の日本原子力発電東海第2原発では、UPZに含まれる自治体を地元同意の対象に加えている。女川原発でも30キロ圏の自治体や住民の意向を除外すべきではない。
 女川原発で重大事故が起きた場合に周辺住民は陸路で避難する計画だが、避難で使う道路は道幅が狭く、地域が求める拡幅も実現していない。昨年の台風19号では道路が一部冠水し、孤立状態に陥る地域も出た。そうした住民の安全確保の議論を置き去りに、再稼働ありきで手続きが進んでいる印象は拭えない。
 東北電は津波の想定を23・1メートルに引き上げ、国内の原発で最も高い防潮堤(海からの高さ29メートル、総延長800メートル)を築いている。安全対策費は3400億円に膨らみ、対策工事の完了予定は当初見込みから2年遅れの22年度までずれ込むこととなった。原発はもはや高コストの電気をつくる施設となっている。
 安全対策が遅れるのであれば、なおさら地元同意の判断を急ぐことはない。
 そもそも、再稼働した全国の原発でもテロ対策用施設の完成遅れや司法判断などの影響で、不安定な稼働状況が続いている。東日本大震災以降、原発の稼働がなくても国内の電力供給は賄えてきた。
 原発を「重要なベースロード電源」と位置付ける政府のエネルギー基本計画を見直し、脱原発を明確にする国全体の政策転換が必要だ。