<社説>「Go To」見直し 補償の拡充が最優先だ


社会
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 「Go To」事業が再び迷走している。菅義偉首相は観光支援事業「トラベル」と飲食業界支援策「イート」の2事業で見直しを表明した。

 遅きに失したとしか言いようがない。21日からの3連休を利用し、全国で多くの人が観光旅行を楽しんでいる。これまでも連休明けに感染者が増えた経験と反省が全く生かされていない。
 見直しによるキャンセルが続けば事業者への補填(ほてん)がまず必要だ。さらに観光、飲食業界が安心して休業し、収束後も事業を継続するには補償の拡大が最優先であることを政府は直視すべきである。経済再生も大事だが、感染症対策の大本は人の接触を最小限に減らすことだ。
 見直しで「トラベル」は感染拡大地域を目的地とする旅行の新規予約を一時停止する。「イート」は食事券の新規発行停止を都道府県知事に要請する。時期や地域は未定だ。
 沖縄は21日現在、新規感染者が10万人当たり17.64人で、全国4番目の多さだ。見直し対象地域になる可能性は十分ある。確実なのは、両事業とも見直しによって沖縄経済に多大な影響を及ぼすことだ。
 「トラベル」の開始で沖縄関係航空路線は搭乗率が持ち直した。ホテル稼働率も一部で80~90%台に回復している。これが再び7月以前の水準に戻るとなれば、再度の雇用調整、補償なき休業へ追い込まれる事業者が出かねない。
 国民にとっても新たな混乱の種でしかない。旅行できない場所がどこなのか。感染拡大地域を目的地とする旅行は停止するが、11月になって感染者が増えている東京、大阪、北海道から沖縄に来るのは認めるのか。発行済の食事券やポイントは利用できるのか。全く示されていないからだ。
 そもそも12日に国内新規感染者が1650人で最多となって以降、14日まで3日連続で最多を更新し続け、18日には初めて新規感染者数が2千人を超えた。「第3波」到来は誰の目にも明らかだった。
 医療崩壊への危機感から、日本医師会や東京医師会の会長、政府の感染症対策分科会が一時停止や見直しを求めたのも当然だ。日本医師会の中川俊男会長は明確な根拠を示しづらいと前置きしつつも「(感染拡大はトラベル事業が)きっかけになったのは間違いない」と指摘している。
 専門家の指摘にもかかわらず、コロナ対策を担う西村康稔経済再生相は、今後の感染拡大は「神のみぞ知る」と言い放った。無責任の極みだ。
 「最大限の警戒感」を持ち「効果的な対策を迅速に実行する」と言う菅首相も、少人数での会食呼び掛けなど「国民の自助」に頼るだけでまともな対策を示していない。
 経済再生は重要課題だが、まずは国民の命を守ってこその話だ。「Go To」事業見直しは当然として、国が本年度予算にコロナ対策として計上した予備費10兆円を今こそ「公助」に活用すべきだ。