<社説>新たな沖縄振興提言 将来像の議論 深めよう


社会
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 沖縄振興特別措置法(沖振法)が2021年度末で期限を迎えることを踏まえ、日本復帰50年以降の沖縄振興を巡る作業が本格化している。県は11月に「新たな沖縄振興のための制度提言」の中間報告をまとめ、本年度末には国に正式な提言を行う予定だ。

 沖縄社会を取り巻く変化はめまぐるしく、デジタル化の進展や地球規模の気候変動のほか、首里城の焼失・再建など新たに生じた課題もある。沖縄のあるべき将来像を県民自らで議論し、共有していく作業を、県にはさらに深めてもらいたい。
 県の提言には、従来にない新たな方向性として、国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の推進を、沖縄振興の目標としても位置付けていくことが打ち出された。具体的には、SDGsに関する取り組みを実施する企業への税の減免措置や財政支援などを想定し、「沖縄らしいSDGs推進特区」を制度提案に盛り込んでいる。
 全国平均の7割にとどまる1人当たり県民所得の低さ、全国一低い正規雇用の割合など、自立型経済の目標は依然として道半ばである。一方、生まれや性別にかかわらず全ての人が豊かさを享受し、自然環境や海の豊かさを守るといったSDGsの問題意識も、沖縄社会の長年の課題と共通する部分が多い。
 双方の目標を連動させることで、子どもの貧困、環境と開発のバランスといった沖縄の課題解決に、新しいアプローチや参画者がもたらされる可能性がある。SDGsを通じて国際貢献とつながることも、県民の国際性や誇りを育むはずだろう。
 こうした沖縄らしいSDGsは、「誰一人取り残さない社会」を公約した玉城デニー知事が意欲的に取り組む施策であり、社会変革に向けて県知事がリーダーシップを発揮することは評価したい。ただ、世界共通の目標であるSDGsと、沖縄の特殊事情に起因する政策課題がどのように結びつくのかというイメージが、現状で県民に広く共有されているとはいえない。
 行政の理念先行で終わらせず、県民の理解を深める手続きが必要だ。
 また、沖振法に基づく特例措置の継続がまだ必要だという前提から議論を求めたい。内閣府による予算の一括計上方式や高率補助などを核とする政府の沖縄振興体制が、沖縄に軍事基地を置き続ける懐柔策に使われてきたことを直視しなければならない。
 2013年末に当時の仲井真弘多知事が米軍普天間飛行場の移設に伴う名護市辺野古沿岸の埋め立てを承認すると、政府は14年度の沖縄関係予算を大幅に増額したのは顕著な例だろう。
 基地依存を脱して自立型経済を構築することが、沖縄の目指す姿に他ならない。これまでの振興施策こそが自立を阻んでこなかったか、立ち止まっての総括が必要だ。