<社説>安倍氏に聴取要請 逃げ切りは許されない


社会
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 政治資金規正法違反、公職選挙法違反、そして背任。「桜を見る会」を巡り安倍晋三前首相の疑惑が渦巻いている。

 東京地検特捜部は「桜を見る会」前夜の夕食会費補填(ほてん)について、政治資金規正法違反(不記載)容疑で公設第1秘書を立件する方針を固めた。安倍氏の任意聴取も要請した。
 報道にあるように、特捜部が秘書を略式起訴の罰金刑で済まそうとしているのであれば、国民は納得しない。もし夕食会費の一部を事務所側が負担していれば、公職選挙法違反(寄付行為)の疑いが出てくる。
 首相を務めた人物が政治を「私物化」し、逃げ切ることは許されない。特捜部に真相の徹底究明を求めたい。
 夕食会は公設第1秘書が代表の「安倍晋三後援会」が主催し、2019年までの5年間でホテル側への支払総額は約2300万円に上る。参加者の会費だけで賄えない分は、安倍氏側が毎年100万円以上、多い年で約250万円を負担していた。しかし、政治資金収支報告書に収支を記載しなかった。
 特捜部は実質的に会計処理を担当していた公設第1秘書については、刑事責任を問えると判断しているとみられる。ただ安倍氏本人を立件するには、議員が秘書らに不記載を指示したとする明確な証拠が必要だという。
 忘れてならないのは安倍氏の国会答弁である。国会で「補填はなかった」と重ねて答弁した。報告書への記載について「収支がとんとんであれば(政治資金収支報告書に)載せる必要はない」と述べた。だが収支がイコールでも記載が必要である。これは虚偽答弁である。
 安倍氏は国会で説明する責任がある。前政権で官房長官だった菅義偉首相も、国会で安倍氏と同じ答弁を繰り返した。結果として菅氏にも倫理上の責任が問われよう。
 安倍氏は桜を見る会に、招待範囲に含まれない後援会関係者を招待し「私物化」した。後援会関係者を多数招いた結果、予算を大幅に超える支出をして国に損害を与えた疑いもある。
 専門家によると、背任罪(刑法第247条)に該当する可能性があるという。今年1月、東京地検に刑事告発されたが受理されなかった。
 政治とカネの問題で思い起こされるのは、金丸信・元自民党副総裁の5億円ヤミ献金事件である。1992年、東京地検は金丸氏を政治資金規正法違反で略式起訴し、東京簡裁は金丸氏に罰金20万円の略式命令を出した。5億円を受け取りながら、公判は行われず罰金20万円で決着したことに批判が沸騰した。
 今回、略式起訴となれば、国民の政治不信はますます深まることになろう。検察審査会が強制起訴する可能性も残されている。司法と国会で、真相を明らかにできなければ、政治の信頼は取り戻せないだろう。