<社説>大飯原発違法判決 全ての原発審査を見直せ


社会
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 日本の原子力行政が根底から否定された。関西電力大飯原発(福井県)3、4号機の耐震性を巡る訴訟で、4日の大阪地裁判決は原発設置許可を違法として取り消した。

 判決は原子力規制委員会の判断に対し「地震規模の想定で必要な検討をせず、看過しがたい過誤、欠落がある」と厳しく指摘した。
 規制委の審査が不十分であることが司法によって示されたのだ。大飯だけでなく、再稼働を目指す東京電力柏崎刈羽原発(新潟県)や東北電力女川原発(宮城県女川町、石巻市)など、審査に合格した施設でも規制委の審査が十分だったのか疑問符が付く。
 東京電力福島第1原発の事故からもうすぐ10年になる。原発の安全が保証されたのか疑問に思う国民は多い。国は全ての原発に対する審査を見直し、太陽光や風力などクリーンエネルギーの活用を真剣に検討すべきだ。
 大飯原発訴訟で争点になったのは、関電が算出した耐震設計の目安となる揺れ(基準値振動)の値や、これを基にした規制委の判断が妥当かどうかだった。
 福島第1原発事故を受け、規制委は自らの審査ガイドで「(過去の地震を参考にした)経験式は平均値としての地震規模を算出するもので、平均値から外れた『ばらつき』も考慮する必要がある」と明示している。
 地震が起きた後で「想定外だった」という言い訳を許さない姿勢を示したものだ。
 しかし大飯原発の審査で、関電は経験式に基づく地震規模の値をそのまま使用し、実際の地震規模が平均値より大きくなる可能性を考慮に入れなかった。規制委も上乗せする必要性を検討せず、関電の言い分をそのまま通した。
 東日本大震災を受けた2012年の防災白書は「災害を完璧に予想することはできなくても、災害への対応に想定外はあってはならない。災害対策の検討に当たっては、楽観的な想定ではなく、悲観的な想定を行う必要がある」と教訓を残している。
 今回の判決は国が「世界一厳しい」とした審査基準そのものを否定はしていない。審査手続きの過程で、安全を担保すべき規制委が自ら定めたルールを逸脱したことが批判された。判決が示すように過去の教訓を生かせないようでは国民の信頼が得られるはずもない。
 一方で国と関電の控訴や上級審で覆される可能性があり、判決がすぐ効力を発揮するわけではない。しかし規制委の審査の在り方が否定された以上、国や電力各社は原発再稼働へ慎重になるべきだ。
 温室効果ガスの「2050年ゼロ」を宣言する菅政権は原発の積極的活用を掲げるが、現状で国民の理解は得られまい。再稼働に「お墨付き」を与えてきた規制委の審査が否定された今こそ、政権の総力をもって「脱原発」への道筋を考えるべき時だ。