<社説>75歳医療費2割負担 無駄を削ることが先決だ


社会
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 75歳以上の医療費窓口負担を1割から2割に引き上げる制度改革について、自民、公明両党は、対象となる高齢者の範囲を「年収200万円以上」とすることで合意した。約370万人の高齢者が負担増の対象となる。

 高齢者にとって消費税率の10%への引き上げに続く負担増であり、生活を直撃するのは必至だ。経済的な理由で必要な受診を控えてしまう事態を招きかねない。高齢者に負担を求める前に青天井の防衛費を見直すなど、国民に負担をつけ回す無駄を削減することの方が先だ。

 現在、75歳以上の窓口負担割合は原則1割で、現役並みの所得がある人(単身で年収約383万円以上)は3割負担となっている。政府は、団塊世代が75歳になり始める2022年から医療費がさらに膨張するとして、支払い能力のある高齢者の負担割合引き上げを検討してきた。

 自民党は75歳以上の30%を対象に負担割合を引き上げるという意向から、「年収170万円以上」の案を主張した。連立を組む公明党は「年収240万円」の案を掲げ、調整が難航してきた。9日の菅義偉首相と山口那津男公明党代表とのトップ会談で、75歳以上の23%が該当する「年収200万円以上」の折衷案で決着した。

 線引きが引き上げられたとはいえ、年収200万円は月16万円ほどだ。負担能力が特段高いというわけではない。1割負担が2割となれば医療費の家計支出は2倍になる。まして年齢と共に病院にかかる機会は増す。現役を引退し、年金収入が頼りとなる高齢者には厳しい仕打ちだ。

 政府は医療費に限らず、社会保障に必要な負担を個人に広く求める形を進めてきた。法人税率は引き下げられながら、低所得層にも一律に課税され、「逆進性」の強い消費税率は拡大している。

 政府は子育て支援でも、高所得世帯の児童手当を削減する方針だ。浮いた費用を待機児童解消の財源に充てるとするが、子育て支援の限られた予算を付け替える「パイの奪い合い」にすぎない。

 「公助」を狭め、「自助」に置き換えていく菅政権の地金が露見している。

 年齢に関係なく、医療費の支払い能力に応じた形にするというのであれば、税軽減の恩恵を受ける大企業の内部留保や富裕層などから財源を回す仕組みを検討し、持続可能な社会保障制度に立て直すことが本来の在り方だ。

 社会保障の自己負担を拡大する一方で、防衛予算は6年連続で過去最大を更新している。米国から兵器を調達する対外有償軍事援助(FMS)は、11年度の432億円から、19年度は過去最高の7013億円、20年度も4713億円を計上した。米国言いなりの武器購入を止めれば、高齢者の医療費負担引き上げで見込む年880億円の財源は容易に捻出できるはずだ。