<社説>児童手当見直し 少子化対策にならない


社会
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 菅政権は、少子化対策に本腰を入れて取り組む気があるのだろうか。

 政府・与党は、中学生以下の子どものいる世帯に給付する児童手当について、高所得世帯向けの給付を一部廃止することで合意した。

 日本の子育て支援などに使われる「家族関係社会支出」は、経済協力開発機構(OECD)加盟国で低い水準にある。今回の児童手当一部廃止は、待機児童対策の財源不足を補うための見直しである。

 しかし、子育て支援予算全体を底上げするのではなく、児童手当の削減によって捻出することは、少子化対策に逆行する。

 少子化対策の充実・強化を掲げる菅義偉首相の方針とも矛盾している。親の年収にかかわらず全ての子どもに児童手当を給付すべきである。

 現行の児童手当は年齢に応じて子ども1人当たり月1万~1万5千円を支給している。会社員の夫と専業主婦、子ども2人の4人家庭の場合、夫婦の「収入の高い方」の年収が960万円以上は給付額が制限され子ども1人5千円だ。

 新たな仕組みは、夫婦どちらかが1200万円以上になれば受給を打ち切る。受給対象から外れる子どもの数は約61万人と見込まれる。政府は給付の一部廃止で捻出する約370億円を待機児童対策に充て、4年間で新たに14万人分の保育施設を整備する。

 では高所得世帯に現金支給は必要ないのか。例えば年収800万円以上の世帯(共働き・子ども2人)は、税・社会保険料の負担が重く、医療・教育サービスの受益を上回る(内閣府、2015年)。

 第2次安倍政権は高校無償化に所得制限を設けたため、一定の所得以上の世帯は制度の恩恵を受けていない。高所得層は、子どもを大学・専門学校に進学させる場合も奨学金に制限がある。低所得層やひとり親世帯だけでなく、全ての親が子育ての問題を抱えている。

 日本の「家族関係社会支出」は対GDP比で1・61。トップのフランス(3・68)の半分以下にすぎない。支出の規模を増やすことが出生率の上昇につながると専門家はみる。

 政府が8日閣議決定した新型コロナウイルス感染拡大を受けた追加経済対策の財政支出は40兆円規模である。それだけの支出が可能なら、なぜ子育て支援に回せないのか。

 日本は2015年以降、児童手当などの現金給付から、保育施設整備など現物給付へ政策をシフトさせてきた。しかし、女性1人が生涯に産む子どもの推定人数「合計特殊出生率」を見ると、19年は1・36で、前年から0・06ポイント低下した。現物給付の効果は明確に表れていない。

 少子化問題は限られた財源の中でやりくりする「パイの奪い合い」で解決しない。女性の子育て負担軽減に役立ち、若い世代の経済的な不安を取り除く政策が求められる。