<社説>コロナ対策 GoToより医療支援だ


社会
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 なぜ、専門家の提言に耳を傾けず、かたくなに特定の政策にこだわるのか。

 政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、感染者が急増するステージ3相当地域を、さらに3段階に分け、拡大が継続する地域内では外出自粛や観光支援策「Go To トラベル」の一時停止を求める提言をまとめた。
 しかし、菅義偉首相はGoToトラベルの一時停止を否定し「まだそこは考えていない」と述べた。政府はGoTo事業に3119億円の追加支援を閣議決定した。
 今必要なのは事業へのこだわりではない。感染拡大で疲弊している医療機関や医療従事者への支援強化である。
 政府は11日閣議決定した答弁書で、GoToトラベルが感染を広げたとの見方を否定した。しかし、専門家の知見は政府見解と正反対である。今回の感染の再々拡大は、東京都を事業の対象地域に加えた後に起きている。
 日本医師会の中川俊男会長はGoTo事業と感染拡大の関係について「エビデンス(証拠)がなかなかはっきりしないが、きっかけになったことは間違いない」と指摘している。東大などのチームの調査によると、事業を利用した人は、利用しなかった人に比べ感染を疑わせる症状を多く経験していた。
 内閣官房の調査報告(11月)に長距離移動のリスクが報告されている。東京大学の大沢幸生教授の分析によると「個々の人が行動自粛をやめてコミニュティー外との接触を増やすと収束せずに感染拡大が継続して発生」するという。明らかに事業と感染拡大の因果関係を示している。
 しかし、経済失速を避けたい菅政権は及び腰で、地域を限った小手先の見直しに終始している。
 GoTo事業を担当する国土交通省内でも「キャンセル料補填(ほてん)で巨額な予算が泡のように消えている。感染が落ち着くまでいったん立ち止まった方がいい」(幹部)と停止論が漏れるという。
 政府は11月25日に「今後3週間が勝負」と位置付けて対策強化を打ち出したものの、新規感染者数の減少につながっていない。
 厚生労働省が発表した新型コロナウイルス感染症患者向けの病床使用率(9日時点)によると、沖縄を含む22都道府県でステージ3(感染急増)の指標の一つとする25%以上だった。北海道、東京など5都道府県は、別の指標(感染ピーク時の確保想定病床や重症者用病床の使用率50%以上)で、ステージ4(爆発的感染拡大)の目安に達した。全国の広い地域で医療現場への負担が増している。
 政府の最高責任者には状況に応じて柔軟に政策決定することが求められる。首相は自身の肝いりの事業にこだわるあまり、数字を見て事実を把握し科学的な思考で判断することができなくなっているのだろうか。由々しき事態だ。