<社説>「夫婦別姓」削除 同姓見直し避けられない


社会
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 誰もが望む姓で生きられる社会に向けた取り組みが、大幅に後退した。

 政府は近く閣議決定する第5次男女共同参画基本計画案から「選択的夫婦別姓」の文言を削除することを決めた。
 働く女性が増え、家族の在り方も多様化している。日本以外に夫婦同姓を義務付ける国はないという。同姓規定の見直しは避けて通れない。
 基本計画の政府原案は、民法の夫婦同姓規定により96%の女性が結婚に伴い姓を変えている現状や、意見募集で寄せられた「実家の姓が絶えることを心配して結婚に踏み切れず少子化の一因となっている」という意見を掲載した。
 2015年の最高裁判決の「夫の氏を称することが妻の意思に基づくとしても、意思決定の過程に現実の不平等と力関係が作用している」との指摘も掲載。民法の差別的規定を廃止するよう求める国連女性差別撤廃委員会の勧告にも触れていた。
 しかし、自民党反対派に押され最高裁判決や国連勧告の部分は削除された。これまで積み上げてきた事実を、なかったことにするような乱暴なやり方である。
 基本計画は女性政策における今後5年間の指針となる。導入に前向きな表現が盛り込まれれば、法改正などの検討が進むと期待されていたが、選択的夫婦別姓の文言自体が消えた。代わりに「家族の一体感、子どもへの影響や最善の利益」の考慮など、反対派の主張が盛り込まれた。今後議論が停滞することも予想される。
 選択的夫婦別姓を巡っては、法務省の審議会が1996年に民法を見直し、選択的夫婦別姓制度を導入するよう答申した。法務省は96年と2010年に導入の改正法案を準備したが、自民などの保守派が「家族の絆が壊れる」と反対し、提出されていない。強制的に同姓にしないと家族が崩壊する、との主張に説得力はない。
 内閣府が18年2月に公表した世論調査で選択的夫婦別姓制度に賛成する人は過去最高の42・5%だった。姓が違っても家族の一体感に影響はないと考える人は64%に上る。
 この調査から、社会の意識は変わりつつあることが分かる。しかし、「女性活躍」の看板を掲げた安倍政権下で議論は進まなかった。伝統的な家族観を重視する保守層に支持されていたため、慎重になっていたとみられる。
 菅義偉首相の誕生で変化が感じられた。かつて自身が推進の立場で議員活動をしてきたことについて「そうしたことを申し上げてきたことには責任があると思います」と明言したからだ。結果は前進ではなく後退だった。
 夫婦別姓について地方議会から立法化を求める意見書の採択が相次ぐ。最高裁も国会に議論を促している。個人の尊厳や多様な価値観を尊重するため、立法府でしっかり議論すべきだ。