<社説>平良投手、新人王 離島の子に勇気を与えた


社会
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 プロ野球、西武ライオンズの平良海馬投手(八重山商工高出)が2020年の新人王に輝いた。県勢では初の快挙であり、出身地の石垣だけでなく、県内の野球ファンは大いに沸いた。

 パ・リーグで毎年のように上位を争うチームで、主砲の山川穂高選手(中部商高出)と共に欠かせない存在へと成長した。スポーツに限らず、離島県の中の離島である八重山・宮古地域では、練習相手や実戦経験の不足などさまざまな困難があっただろう。
 その中で自らを信じて努力を続け、栄光を手にした。平良投手の快挙は離島の子どもたちに勇気を与えるとともに、目標に突き進む信念の大切さを教えてくれた。
 石垣では学童野球、中学硬式野球のチームで活躍し、八重山商工に進んだ。150キロの速球とパワフルな打撃で高校時代から注目株ではあったが、県大会の最高成績はベスト8にとどまる。甲子園には手が届かなかった。
 しかも八重山商工は少子化や他校との競合で野球部員が集まらず、一時は部員6人しかいない時期もあった。平良投手も2017年春の県大会は宮古工高との連合チームで出場している。
 当時、大会に向けて両校が合同練習をしたのは2度しかなかったという。チームワークが求められる団体競技で、人数がそろわない状態でもチームを維持するのに、苦労を重ねたことが分かる。
 それでも平良投手は「将来の目標はプロ」と努力を欠かさなかった。
 念願のプロ入りを果たしても休むことなく歩み続けた。一軍に定着した19年のオフシーズンは球団の優勝旅行を辞退して、大リーグのシアトル・マリナーズで活躍する菊池雄星投手の元へ渡米し、共に練習した。高校時代から続く「プロの一軍で投げて活躍すればみんなが見てくれる。頑張っている姿を見せて、プレーで周りへの感謝を伝えたい」という気持ちを変わらず持ち続けていることがうかがえる。
 平良投手の快挙に接し、高校時代の指導者は「チーム力とは別に努力すれば個人の将来性に差がないことを証明してくれた」とたたえる。夢を諦めず、誰もが認める実績を積み上げた姿は、離島の子どもたちにとってこれ以上ない目標になるだろう。
 終盤、僅差の場面で出てくる救援投手は一球一球が勝敗に直結する。平良投手が登板するのも、そうした緊張する舞台がほとんどだ。その中で相手チームの主軸を抑える心の強さ、技術の高さは、これまでに培った実力を示している。着実に歩みを進める平良投手には、さらなる進化を遂げてほしい。
 近年、プロ野球では山川選手を筆頭に県出身選手が輝きを増している。離島から生まれた新たなヒーローが、多くの子どもたちに夢を与えてくれることを期待したい。